なぜシンガポールの人々に人気なのか

一方、欧米やローカルのケーキショップで売っているのはチョコレートケーキ、バタークリームのケーキ、パイ、クッキーといったものだ。全体に白と茶色の色合いである。新鮮な果物を使うケーキは少なく、果物を使うとしても、コンフィチュールやジャムにしてある。

日本のようにシャインマスカットや白桃をどっさり載せたケーキはまず見かけない。ケーキはケーキ、果物は果物で食べるという感覚なのだろうか。

シャトレーゼのように空輸便を使ってまで、新鮮な果物をケーキの材料にしようという発想がないのだろう。

ケーキ
筆者撮影

考えてみれば、日本と海外では果物の持つ意味合いがやや違う。例えば、海外へ行くと、果物は青果店に野菜と一緒に並んでいる。また日本の果物のように甘さを追求した商品とはいえない。酸っぱいものであったり、水っぽいものであったり、バナナのように主食にもなりうるのが海外の果物だ。

例えば気温が高いアジアや中東、南米などでは果物は水分を取るためのものだ。甘くなくてもかまわないといえる。

一方、日本の果物は「水菓子」である。甘みと水分を含んだデザートの役割を持っている。だから、ケーキの上に載せて食べてやろうという発想が生まれる。

店員
筆者撮影

ケーキだけでなく「日本の四季」を売っている

また、日本には四季に合わせて果物が栽培されている。果物は季節を表す農産物だ。いちご、さくらんぼ、スイカ、桃、梨、柿、りんご、みかん……。果物が載ったケーキを買って食べることは日本の四季を味わうことにも通じる。

シャトレーゼは日本の特徴を生かして海外に進出している。日本が持つ四季と季節の果物という強みを活用している。これまでにも日本の洋菓子、和菓子店が海外に店舗を出してはきたが、シャトレーゼは次元の違う高等戦略で海外進出している。

「シンガポールではショッピングモールに店舗を出店してきましたが、ほぼほぼ出し尽くしたところです。次に狙うのはもう少し小さな規模の店を住宅街のなかへ出すこと。会長の齊藤は『シンガポールやアジアの子どもたちには気軽にアイスクリームを食べてもらいたい』と言っています。わたしたちは日本のシャトレーゼがやっているような気軽な値段でおいしいお菓子をたくさん楽しんでもらいたいと思っています」(松岡さん)

ショーケース
筆者撮影

シャトレーゼは洋菓子、和菓子だけを売っているのではない。日本の四季、季節の果物という風土と文化を売っている。短い期間にシンガポール、アジアに根付いたのは商品だけを大量に売りまくったのではなく、日本だけが持つ自然の恵みと文化を合わせて紹介しているからだ。日本文化の紹介者ともいえる。

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