高橋留美子の『うる星やつら』、浦沢直樹『YAWARA!』。これらに登場する“たくましい”女性主人公たちは、女性読者に何を伝えているのか。マンガ研究者のトミヤマユキコさんは、「『うる星やつら』では、強くたくましいことが、女らしさを諦めることではなく、素敵な女の子の証となる世界を描いている。そして『YAWARA!』では、女がたくましくなる上で何かを諦める必要なんてない、というメッセージを発している」という――。(第1回/全3回)

※本稿は、トミヤマユキコ『女子マンガに答えがある 「らしさ」をはみ出すヒロインたち』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。

力こぶを作る女の子
写真=iStock.com/Andrii Zastrozhnov
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“たくましい女”ラムちゃん

高橋留美子『うる星やつら』の「ラム」は、かわいくてスタイル抜群だが、ダーリンこと「諸星あたる」相手に大暴れしているところを見ると、たくましい女の仲間だなと思う。

同作に収録された「ミス友引コンテスト」(全5話)は、ラムちゃんのたくましさを知るのにうってつけのエピソードだ。

高橋留美子『うる星やつら〔新装版〕(1)』(少年サンデーコミックス)

物語は、あたるたちがこっそりやっていた「美人コンテスト」からはじまる。男子生徒だけでやっていた人気投票が教員にバレてしまうのだが、意外なことに校長が興味を示す。女子生徒たちは顔で判断され、いやらしい目で見られることを拒否するが、校長は次のように叫んで、女子たちの声をはねのけてしまう。

「美貌知性 健全な精神!!/そして力と技!!/これらすべてをかねそなえた女性こそ!!/ミス友引と呼ぶにふさわしい!!」。

こうして友引高校の真の美女を決める大会が始まる。おもしろいのは「総合的な女性の美」を評価すると言いながら、見た目はわりとどうでもよくて、握力の検査をしたり、「女対動物のタッグマッチ」を開催したりしているところ。とにかく「力と技」への注目度が高い。

水着審査なども一応あるにはあるのだが、水着というよりは女子プロレス選手の衣裳のような扱いだ。つまり、どれだけたくましいかがミス友引を決める基準となっているのである。

予選を勝ち抜き本選に残ったラムちゃんたち5名は、巨大なクマやらトラやらと戦い、見事勝利を収める。試合の最後なんて、ひとり一頭ずつ猛獣を抱え、ぶん投げて空中でぶつけ合うのだ。

キュート&セクシーのお手本みたいなラムちゃんを登場させておいて、その魅力を腕っぷしで測ろうというのは、考えてみるとけっこう斬新。肉体的なたくましさで女の魅力を決めるイベントを「美人コンテスト」と呼ぶラディカルさはもっと評価されていいのではないだろうか。

「いや実にすばらしかった!!/みがかれた技といい!!/きたえぬかれた体といい!!/まったく採点を忘れるほど……」――こう語る校長の目はマジだ。そしてレフェリーを務めたあたるも、彼女たちの勝利を素直に祝福している。

強くたくましいことが、女らしさを諦めることでもなければ、乱暴者になることでもなく、素敵な女子の証となる世界。現実の世界にもこんな高校があったらいいのに。