「あと2年がんばって辞める」

「東京生活に慣れてノリノリだったとき、JALとの統合が一気に進みはじめて、サバイバルゲームに突入しました。お休みは月2日ぐらいだから、習い事や遊びの時間なんてない。スタッフの多くがメンタルをおかしくする。ミスやトラブルが増える。パワハラやモラハラが横行しだして人間不信に陥る。悪循環でした」

過酷な状況が続いても、「あと2年だけがんばって辞める」と決めたら悩みが吹っ切れた。

スコラ・コンサルト 代表取締役 簑原麻穂さん
撮影=市来朋久

しかし統合後は、JAS時代と違って社内ネットワークがないため、思いどおりに仕事が進まない。簑原さんが会議を開くと参加者はわずかで、決議に不可欠な関係者がみんな欠席したこともあった。

途方に暮れたときに助けてくれたのが、同じ部署にいたJALの仲間だった。簑原さんの想いに共感してくれた仲間が関係各所に連絡し、会議に参加するよう動いてくれたのだ。

組織を動かすことに試行錯誤しながら、最後はJALの仲間とともに新サービスの導入やサービスの品質向上など、無事にやり切ることができた。

夢は40歳で起業

2004年4月の経営統合から2年後、2006年4月に丸20年勤めた会社を退職。1年ほどアメリカ、カナダ、中国などを旅しながら今後の計画を練った。もともと40歳になったら起業したいという夢があった。キャリアコンサルタントの資格も活用し、働く女性のキャリア支援を事業化しようと構想した。同時にエステ、ネイル、整体など働く女性たちに心身のメンテナンスを総合的に提供するビジネスも考えていた。

簑原さん自身が多忙な時期に、欲しいと思ったサービスだった。事業計画書を作成するトレーニングを受け、自治体から補助金をもらう方法なども調べた。

「ところが、起業の準備を進めるうちに、自分は航空会社しか知らない井の中の蛙だと気づいたんです。いったんコンサルタント会社で修業したほうがいいと考えました」

コンサルタント会社の中途採用にいくつか応募して面接に出かけていた頃、元同僚が「この会社、君にピッタリじゃないの?」とメールを送ってくれた。URLをクリックして開いたのがスコラ・コンサルトのホームページ。その元同僚は以前、スコラ・コンサルトの創業者である柴田昌治氏の著書をプレゼントしてくれたことがあった。

スコラ・コンサルトは主に企業の組織風土改革を支援し、柴田氏の『なぜ会社は変われないのか』はシリーズ累計で約40万部を超えるベストセラーだと知っていた。同社のコンサルタントはプロセスデザイナーと呼ばれ、クライアント企業の現場に入って社員たちと一緒に風土改革に取り組んでいく。

「経営統合の経験から、組織風土に対する問題意識があったんですね。新しい価値を生み出す目的が統合なのに、みんな疲弊してミスが増え、メンタルを壊していったのは組織風土にも原因があったんじゃないかなと」

簑原さんは1年の充電期間を終え、2007年4月にスコラ・コンサルトのプロセスデザイナーとなった。