クライアントから5時間の説教

初めての仕事は戸惑うことばかり。航空会社の統合プロジェクトで身に付けたノウハウはほとんど通用しなかった。クライアントとぶつかることもたびたびあった。

「経営統合の時のガンガンやる勢いで改革を進めたら、抵抗されて当然ですよね。最初に担当した会社で、役員たちとの会食中に5時間近く説教されました。『俺たちの会社でお前の会社じゃない!』とか。こっちは一生懸命なのになぜ? と涙ぐんだことが何回もありました。私がグイグイ組織に入り込むものだから追い出されたこともあります(笑)」

プロセスデザイナーの役割と仕事のツボがわかってくると、ストレスは減り、クライアント数も増えてきた。

やりがいを感じはじめた頃、プライベートで問題が起きた。2012年に母が末期がんだとわかり、余命数カ月と宣告されたのだ。簑原さんは介護休暇をとって大阪の実家に帰った。24時間在宅介護は5カ月つづき、最愛の母は永眠した。

簑原さんのショックは大きく、仕事に復帰しても以前のように快活に働けない。ようやく立ち直れたのは、母の三回忌が過ぎた頃だった。

簑原さんは長い停滞期を取り戻すようにエネルギッシュに活動しはじめる。コンサルティングのかたわら、ラジオ番組に出演し、セミナーや講演にも力を入れた。2020年には初めての著書『全員参画経営』を上梓した。

社員の総選挙で社長に選出

スコラ・コンサルトの代表取締役に選ばれたのは2021年3月。選ばれたというのは、社員全員による投票で決まったからだ。

「AKBみたいな総選挙です(笑)。つまり、候補者は全社員。最初の投票で3人に絞られ、自分はどんな会社にしたいかとマニフェストをプレゼンして決選投票に進むしくみです」

社長の任期は1年。2期やり切って降りるつもりだった。だが、2期目が終わる頃、簑原さんから「3年目もやらせてもらいます」と宣言すると、誰からも異議は出なかったのでそのまま3期目も続投となった。

「1年目は業績を上げること、2年目は経営基盤を盤石にすることに努めました。3年目は会社の持続性を高めるための新しい挑戦に取り組んでいます。やりたいことはまだまだありますよ」

生意気な新人だった簑原さんが、周囲との軋轢や数々の失敗を乗り越えて成長してきたことがわかる。社員の支持を受けて社長になった現在も挑戦はつづいている。

スコラ・コンサルト 代表取締役 簑原麻穂さん
撮影=市来朋久
役員の素顔に迫るQ&A

Q 好きな言葉
慌てず焦らず努力する。いつか必ず報われる。
「スコラの仕事に慣れず悶々としていた頃、父からメールで届いたメッセージです。たしかに報われました」

Q 愛読書
アーノルド・ミンデル著、青木聡訳『紛争の心理学 融合の炎のワーク』(講談社現代新書)

Q趣味
筋トレ、ウオーキング、絵を描くこと、旅行、歌うこと

Q Favorite item
Pret-a Walkingのスニーカー

スコラ・コンサルト 代表取締役 簑原麻穂さんお気に入りのPret-a Walkingのスニーカー
撮影=市来朋久

「歩くと前向きになり、モヤモヤしていることも整理され、答えが出ます」

(取材・文=伊原直司)
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