家庭や職場で浴びせられる「悪気のない」言葉

結婚しなければならないというプレッシャーは、「恋愛関係―家族構造」という覇権(ヘゲモニー)に適合している。

人は結婚しているだろうという思い込み、あるいは、もしそうでないなら、シングルでいるのを不本意に感じているはずだという思い込みは、どちらも非常に強く規範化されているので、独身差別の罪を犯している人たちは、自分たちがシングルの人たちを傷つけていることに自身では気づいていないのだ。

多くの場合、このような偏見は家族のなかで口にされている。たとえば、42歳のマータは、シカゴに住む両親から遠く離れてロサンゼルスに住んでいるが、それでもプレッシャーを感じているという。彼女と同じような気持ちの人は多い。

私の家族は、私が結婚していないことを理由に私を悪く言う。

父は自分の面倒をみてくれる男を見つけないのは馬鹿だと言う。母はいつも、私のことを心配しなくてすむんだったら、彼女の人生はいいものになるはずだって言ってくる。

私は母に、結婚していれば安心安全というものではない、妻と別れたり、妻を見捨てたりする男はたくさんいると主張してみる。でも、母からすれば、男は結婚しているほうが、相手を捨てにくいものらしい。

「あなたの彼氏が結婚する気がないんなら、いつか、きっとあなたを捨てるでしょう。昔、私が付き合っていた(当時)14歳のボーイフレンドがそうしたようにね」。

残念なことに、マータは、自分が「愚か」である、安心安全でない、母親を心配させている、相手に捨てられる可能性が高い、というメッセージを受けとっている。

差別、偏見、社会からの期待すべてが女性により強く向けられる

マータは自分の家族と一緒にいるときでさえ、世界中のシングルが、家庭内でも、友人たちのあいだでも、職場でも経験している、シングルに対する不安や偏見と闘わなければならない。

このようなシングルに対するネガティブな態度は、特に、年齢が上がるにつれてひどくなる。彼らは、若い人たちよりもっと弱くて、人の世話になる存在だと思われているからだ(※13)

悲しいことだが、マータがもう少し若かったら、そして、もし男性だったら、彼女のシングルという状況も、もっと受け入れやすいものと受け止められていたかもしれない。

シングルの女性は、シングルの男性よりもっとひどくスティグマに苦しめられることが、調査結果からわかっている(※14)

これらの研究によれば、差別、偏見、加えて社会からの期待すべてが、女性に対して、より強く向けられる。というのも、女性は男性に比べて、地位や権威のあるポジションにつける人が少なく、ほとんどが不公平な条件で働いており、また、専業主婦になる人も多いからだ。

家族の形成に重きを置く、伝統的かつ宗教的で、保守的な社会の人たちのあいだでは、スティグマを与えられることが特に多い(※15)

だからこそ、伝統的な社会に生きるシングルマザーはさらにスティグマを付与されるリスクが高い。シングルでありながら子育てをすることは、伝統的な家族の規範から最も逸脱したものだと考えられるからだ(※16)