「室内での多頭飼育」か「屋外での野良猫生活」か
いったい女性はどんどん増えていく猫たちを見て、何を思っていたのでしょうか。
室内でぎゅうぎゅうに暮らす猫たちと、屋外で寒さや飢えにたえながら暮らす野良猫たち――みなさんは猫にとってどちらの環境が望ましいと考えるでしょうか。
モコ先生が茨城さくらねこクリニックにもどると、長谷川道子さんが電話口に向かって大きな声で話していました。「ですから!」と強い口調で言っているところを見ると、何度か同じ内容の話をくり返しているようです。
「人といっしょに暮らしていくことが本当によいことなのか、考えてください。『えさやりさん』がいる猫を家の中に入れなくても、ふだんは外で過ごして、時々えさやりさんにお世話してもらう形のほうがいいこともありますよ。それに譲渡会に出しても、必ず新しい飼い主さんが見つかるわけではないんですよ」
しばらくして電話を切ると、「まったくもう、譲渡会に出しさえすればいいと思っているんだから」と、長谷川さんがつぶやきます。
20匹近くの猫を引き取っていくボランティアもいる
TNRは野良猫をつかまえて不妊去勢手術を受けさせ、また元の場所にもどすことが基本です(第1回記事参照)。けれども一時的に猫を預かっているうちに、このまま室内で人と暮らしたほうが猫も幸せなのではないかと考える人もいます。でも、自分のところでは飼えない。だから新しい飼い主を見つけるため、譲渡会に出したいという相談でした。こういった相談はよくあるそうです。
「長谷川さんの言うとおりだと思うよ。えさやりさんがいるなら、ね」
と、モコ先生。えさやりさんとは、定期的に野良猫にえさをあげる人のことです。
長谷川さんは顔を上げてこう言います。
「ここは東京とちがって田舎なので、外でえさをもらう生活ができるなら、そのほうが猫にとって幸せじゃないかなって私は思うんです。人が好きでもないのに家の中できゅうくつな思いをしながら生活するなんて、そちらのほうがかわいそうですよ」
夕方になると、野良猫を預けたボランティアさんたちが車で猫を引き取りにきます。60代後半のある女性は、手術を終えた20匹近くの猫を引き取っていきます。
「他の人がつかまえた分も私がまとめて引き取りにきたんですよ」
60代の女性が猫を運びながら、長谷川さんに説明します。
「自宅の近くではしょっちゅう車に子猫がひかれていてね。春が近くなるとオスがメスを探して動き始めるから、その前に少しでも多く手術を進めようと思って」