「猫も、私も、今この瞬間を生きている」
その人は説明に納得したのか、猫をだきしめていた手をゆるめます。ボランティアさんはそのすきまから猫を受け取り、すぐほかく器に移しました。そしてまた走ってこちらにもどってきます。その顔は笑っていました。
病院にもどり、モコ先生はほかく器にいる野良猫を首をかしげてのぞきこみました。鳴かないけれど、緊張しているのがこちらに伝わってきます。麻酔から覚めるまでに必要な時間を考えると、手術は今日ではなく明日がいいでしょう。
「明日手術だから本当はあげちゃダメなんだけど……少しだけね」
モコ先生はそう言って、少量のえさの入った皿をほかく器の中に入れました。ちょろちょろと食べ始める猫の姿がかわいくて、すきまから少し頭をなでました。
温かい。
猫も、私も、今この瞬間を生きている。そう思いました。