ほとんどの経営者が気づいていないメリット
さて、実はほとんどの経営者に認識されていない、既存メディアの取材を受けるメリットが、もうひとつ存在する。それは「経営者自身も対して気づいていなかった自分や会社の魅力を掘り起こし、一般の共感を得るように無料で編集してもらえる」という効果だ。
私はテレビ東京の記者・ディレクター時代に、300人以上の成長企業の経営者を取材した。いずれもテレビの経済番組が注目するほどの成長を成し遂げた「立役者」なのだから、当然、ビジネスの能力は非常に高い人々だ。
そんな極めて優秀な人々ですら、実際にインタビューすると、話の中身はかなり散らかっているものだ。社員以外は興味を持たない細かな目標数値、あるいは「業界のプロ」しか理解できないような専門性の高い話、さらに世間体を気にするあまり「綺麗事」にしか聞こえない美辞麗句などで溢れているのだ。
記者やディレクターは、こうした複雑で、さまざまな要素が混然一体となったインタビュー内容から、特定の要素を選択し、一本の筋が通ったストーリーとして編集することを試みる。しかも、数千万人の潜在的な視聴者にわかりやすく、かつ共感を得られる形でなくてはならない。
第三者による「掘り起こし」効果
この「経営者自身も気づいていない自社の魅力を、一般の大多数の支持が得られる形で編集してもらえる」というメディア出演効果は、意外と大きい。
業績不振からV字回復を達成しようとしていた、ある大企業の経営者を取材したことがある。私はこの経営者に2時間以上、インタビューした。番組で「映像として」用いるのは、せいぜい1、2分に過ぎない。では、なぜそんなに長時間、インタビューするのかというと、あらゆる材料を洗い出すために、さまざまな角度から質問を繰り出すからだ。
放送後、この会社の広報から私は「取材者冥利」に尽きる言葉を聞いた。「インタビュー後、社長が全社員集会で『先日テレビのインタビューを長時間受けたが、話しているうちに考えが整理され、目指すべき方向性が明確になった』と話していました」。これも記者という第三者による「掘り起こし」効果の一例だろう。
実際、私が企業も広報支援に着手する際に、最初に取り組むのが経営者への長時間の徹底的なヒアリングだ。その目的は当然、「広報材料の掘り起こし」だ。経営者が「今、伝えたいこと」、あるいは「事業そのもの」などは、第三者にとっては大抵が「どうでも良いこと」。だから「掘り起こし」が欠かせないのだ。