日本経済停滞の原因は高齢化ではない
むしろ、増税や社会保障削減によって「将来不安」が生まれていることが、人々が貯蓄を増やす原因になっています。
増税・社会保障削減は、「将来にツケを残さないため」であり、「将来不安を取り除き、消費を促す」という説(安心効果説)もあります。ただ、現実を見れば、まったくそうなっていません。
むしろ、これまでの緊縮財政が日本経済に悪影響をもたらしている面を考慮すべきです。
財政収支が大幅な赤字であることから、「緊縮財政による悪影響」との指摘に違和感を持つかもしれませんが、適切な財政政策は財政収支の状態で測るべきではなく、民間部門の活動と合わせた国内の需要創出度合いで判断せねばならず、それでいくとずっと財政支出が足りていないと言うことができます。
国民全体の資産から負債を差し引いた正味資産(または純資産)を「国富」といい、内閣府が推計しています。国民全体が保有する正味の金融資産といえるものです。
図表7は国富と高齢化率の推移をグラフにしたものです(グラフでは高齢化率は下に行くほど増加する点に注意)。確かに国富は増えていませんが、大きく減ってもいません。むしろ横ばいが続いているといえます。一方、高齢化率はずっと上昇傾向にあるので、高齢化が進むほど国富が減る、という関係ではなさそうです。
そもそも、高齢化によって日本経済が衰退した、というのは事実ではありません。
データで確認してみましょう。国富(対GDP比%)がどれくらい高齢化の影響を受けているかを、統計の手法を利用して調べてみます。
次に挙げる式は、1980年からのデータで、国富の推移が高齢化率の推移とどれだけ関係があるかを見たものです。回帰式と言いますが、その計算の詳細は割愛し、分かったことだけ指摘すると、国富の動きに対しては、高齢化率の動きより、企業のネット金融負債の動きの方が圧倒的に強い影響を及ぼしていることが分かります。
つまり企業活動の拡大や縮小により依存するという、納得的な結果でした。
さらに、国富は高齢化率と正の相関、つまり、これまでのところ高齢化率が上がるにつれて国富が増えるという関係性があったと判断されるのです。
国富停滞の真因は緊縮財政
日本では1990年代から企業貯蓄率が恒常的にプラスになっています。企業とは借金をして利益を拡大する主体ですから、これは異常な状態といえます。
こうした企業のデレバレッジや弱いリスクテイク姿勢が、内需低迷やデフレ長期化の原因だと考えます。
実際、企業のネットの金融負債は2006年1~3月期の140.5%がピークで、そこから急速な減少傾向となり、2013年から2020年にかけて3回の波で80%割れを付けるまで低迷しています(ボトムは2016年4~6月期の76.1%)。
ここ2年ほどは負債が少し増えていますが、2023年1~3月期には104.4%と、ピークからは依然として4分の3の水準にとどまっています。
このように企業活動が明らかに低下している状況では、緊縮財政ではなく、むしろ財政拡大によって、企業活動を刺激する必要があるでしょう。
そういう意味では、国富停滞の真因は、これまでの緊縮財政であると言っても過言ではありません。