「競技スポーツ」と「ライフスタイルスポーツ」の違い

しかしこのときのランニングの習慣が意外なかたちで僕の暮らしを変えることになった。それから何年か経って、『走るひと』というランニング雑誌から取材の依頼がきた。その雑誌ではアスリート以外で「走る」習慣のある人をいろいろな分野から紹介するという企画を毎号続けていて、どこかで僕がよく走っているらしいぞ、という噂を聞きつけてきたらしかった。

僕は、取材にやってきた編集長の上田唯人さんに、最近はまったく走っていないのだけど、と前置きしたうえで、かつてダイエットのために続けていたランニングについてまとめて話した。

すると上田さんは僕に、「競技スポーツ」と「ライフスタイルスポーツ」の違いについて話してくれた。

競技スポーツというのは、マラソンやサッカーや野球や柔道など、僕たちが知っている「スポーツ」のほとんどのものが含まれる。これは「競技」であり、他の誰かに「勝つ」ことが目的になっている。

そして一方の「ライフスタイルスポーツ」とは、身体を動かすことそのものを楽しみ、運動することそのものが「目的」になっているスポーツのことを指す。ヨガや太極拳、そして上田さんが注目している楽しみとしてのランニングがこれに当てはまるという。

体育に苦手意識を抱くワケ

上田さんが言うには、実はいま、20代、30代を中心に、競技スポーツをする人よりも、ライフスタイルスポーツをする人のほうが増えているというのだ。僕は上田さんのこの話に、とても惹かれた。

理由はふたつあって、ひとつは上田さんの話は僕が子どものころから「体育」というものに抱いていた苦手な気持ちがなぜ生まれるのか、その理由を説明してくれていたからだ。

そしてもうひとつの理由は、この取材の少し前に、僕は自分のつくっている雑誌(『PLANETS』という)で、2020年の東京オリンピック/パラリンピック(以下、「オリンピック」)特集を組んだのだけれど、上田さんの話はこの特集を通して僕が考えようとしていたことと通じるところがあったからだ。

僕は2020年(実際に開催されたのは2021年)の東京オリンピックの開催には、誘致運動の段階から反対していた。このオリンピックが東日本大震災からの復興も十分ではない当時の日本に必要だとはどうしても思えず、発表された計画も杜撰で、誘致に成功してもあまりいい結果をもたらさないと考えたからだ。

そして反対だからこそ、もしどうしても開催されるのであれば、こういうオリンピックとパラリンピックにしようぜという「夢の企画」を、仕事仲間のジャーナリストやアーティスト、社会学者や建築家たちと一緒に考えて、1冊にまとめたのだ。もし興味をもってくれたら読んでくれると嬉しいけれど、このとき僕が考えたのが、日本の「体育」的な価値観の見直しだった。