気軽に一括受給するのが危ない理由
気を付けたいのが、過去5年分の年金を一括して受け取ると、実際に年金を受給した年の収入としてではなく、本来の年金支給日が属する年の収入として所得の計算が行われることです。
公的年金等控除の額を超えない程度の年金額であれば影響はありませんが、過去の各年分の所得税額が増えるような場合、修正申告(確定申告していなかった場合は期限後申告)が必要となり、不足分の所得税や加算税・延滞税がかかることもあります。さらに住民税や介護保険料、国民健康保険料等に影響が生じるケースもあります。
もし、繰下げ待機中に年金を受け取らないまま亡くなった場合、遺族は未支給の年金を受け取ることができますが、増額した年金額ではなく、本来の年金額が受け取れるのみです。「5年前みなし繰下げ制度」も本人が請求する場合にのみ適用となるので、70歳到達以降に亡くなった場合、時効によって消滅してしまう年金が発生します。
何も手続きしなければ自動的に「繰下げ待機」に
このように見ていくと、年金受給権の5年時効がなくなったわけではなく、あくまでも70歳以上80歳未満の特例であることが分かります。
年金を受け取るには手続きが必要ですが、年金繰下げに特段の手続きは不要です。65歳に到達する3カ月前になると「年金請求書」が届きますので、65歳から年金を受給する場合は年金請求書と必要書類を年金事務所に提出します。しかし、何も手続きをせずに放置すると、自動的に「繰下げ待機」の状態になります。
そして、受給を開始しようと思ったときに「支給繰下げ申出書」を提出することで、増額された金額での受給が開始されます。ただし、老齢基礎年金と老齢厚生年金のどちらか一方だけを繰下げて受け取りたい場合は、年金請求書の「老齢基礎年金のみ繰下げ希望」「老齢厚生年金のみ繰下げ希望」のいずれかに印を付けて年金事務所に提出する必要があります。