法的に残業は存在していない
①の「公立教員は特殊」とはどういうことでしょう? これは、「公立教員はほかの労働者と違って、それぞれの判断で自発性・創造性を発揮してこそ、よりよい教育活動ができるというものです。だから管理職からの命令は行わないことにします。それに放課後は割と自由に過ごせるし、夏休みだって十分あるでしょう? あんまり残業だ、残業代だと考えず、それぞれの判断で自由に働いたり、時には好きに残業したりしてください」、こういった考えに基づいているのです。
法律ができた50年前ならいざ知らず、「夏休みがある」「自己の判断で自由に働ける」など、今の学校現場はそんな状況にありません。
また、⑤の「4%」という数字は一体何なのでしょうか? これは、給特法成立のさらに5年前、1966年に教員勤務に関する全国調査を行ったら、平均して月8時間ほどの残業が発生していたことから設定されたものです。当時は今と違い週6日勤務だったのですが、一日にすると約20分の残業。これが「教職調整額4%」の根拠なのです。
こういうふうに説明すると、「なるほど、教師は『固定残業代』として4%分の残業代が前払いされているのだな」、と理解する人がいるかもしれません。確かに、企業の中には固定残業代制度を取っているところがあります。固定残業代(みなし残業代)とは、毎月の残業分を見越して、あらかじめそれに見合った残業代を支給しておくという制度です。
仮に教職調整額も固定残業代だとわかりやすくて、残業が4%分を超えたら追加の残業代を求めることができます。固定残業代とは本来そういう制度なのです(注)。
給特法による教職調整額が固定残業代ならば、今の労働実態に合った残業代を追加請求したらよいのです。しかし、4%の教職調整額というのは固定残業代とは違います。なぜなら、給特法の驚きの大前提は、「残業命令は存在しない」。すなわち「残業は(法的には)存在していない」ということだからです。
給特法の最もえげつない部分
現に残業が発生していたとしても、それは命令を受けて行っているものではなく「自発的勤務」、すなわち「教師が好きで行った扱い」。教職調整額とは、そういった全ての特殊扱いに対して支払われる「手当のようなもの」であり、どこまで行っても残業代ではなく、残業時間がどれだけ増えても追加の補償も何もなされないのです。
これゆえ給特法は近年、「4%定額働かせ放題」と呼ばれています。しばしば「やりがい搾取」とも呼ばれる始末です。
残業は労働ではなく、自発的勤務。これが他職や私立教員、国立大附属教員には見られない給特法による「ブラック残業」であり、この法律の最もえげつない部分です。「残業していても、それは残業(労働)とは認めません」、これを法律が支持してしまっているのです。
この扱いは、全ての職業の中で公立教員だけに存在する「特殊」な……その実「異常」な扱いと言っても過言でありません。