経済より政治重視の習主席のジレンマ

理論的に考えると、中国が過剰生産能力を解消するためには、大きく2つの取り組みが必要だ。まず、不良債権の処理を進める。次に、規制緩和などを行い、成長期待の高いITなど、先端分野などに生産要素(ヒト、モノ、カネ)が再配分されやすい環境を整える。

ただ、共産党政権にとって、一時的であれ、失業者の増加などは避けなければならない。政治を優先していると考えられる習国家主席にとって、不良債権の処理や構造改革による一時的な痛みは、民衆や党内部からの批判が増える要因になりかねない。2021年12月以降、そうした展開を避けるために中国人民銀行は利下げを再開し、金融緩和を強化した。

2022年3月以降、米国では利上げが実施された。中国と米国の金利差は拡大した。人民元の先安観は高まり、海外への資金流出は増加した。そうしたリスクが高まるにせよ、共産党政権は金融緩和によって目先の需要を下支えしなければならなくなった。足許、中国はかなり厳しい経済環境に陥っている。投資に頼った成長は限界のようだ。

ブリンケン国務長官と面会した狙いは

6月19日、習氏はブリンケン米国務長官と面会した。半導体や人工知能(AI)など先端分野で米中の対立は激しさを増した。それに対して、日用品や雑貨などの分野で、相互の依存は深まった。2022年、米国と中国のモノ(財)の輸出入の合計額は過去最高を更新した。

足許、幾分か弱まってはいるが、米国の労働市場は改善基調を保っている。個人の消費も予想よりしっかりしている。習政権は、アパレルや玩具などを中心に米国への輸出を増やしたいと考えているだろう。それは、中国にとって過剰な生産能力を活かし、ゾンビ企業の延命に重要だ。そうした思惑もあり、習氏はブリンケン国務長官と面会したと考えられる。

だからといって、今すぐ、米中の関係が修復されるとは考えづらい。また、米国では想定された以上に物価が高止まりしている。連邦準備制度理事会(FRB)は追加の利上げを慎重に進め、個人消費は減少するだろう。それによって、中国の輸出も伸び悩む恐れがある。今後、中国が外需に頼って景気の本格的な回復を目指すことは難しいと考えられる。