“3つのレッドライン”が実施されると急激に悪化

中国は不動産などの投資を増やして、高い経済成長を実現した。それによって、地方の政府は、経済成長の目標水準の達成に取り組んだ。目標実現は、幹部の出世にも大きく影響した。

しかし、2020年8月に“3つのレッドライン”(不動産デベロッパー向け融資規制)が実施されると事態は悪化した。デベロッパーの資金繰りは逼迫ひっぱくし、建設活動は停滞した。建設が完了しないまま放棄されるマンション〔鬼城(グェイチョン)〕も増えた。マンションなどの価格が上昇し続けるという期待は低下した。

中国恒大集団(エバーグランデ)などのデベロッパーは資産売却を急ぎ、資金繰り確保に取り組んだ。それでも、財務内容の改善は容易ではない。今なお不動産業界全体の業況が持ち直す兆しは見いだしづらい。

中国のアパート建設現場
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“世界の工場”としての地位は低下している

それに伴い、過剰な生産能力の問題も深刻化した。5月、中国の鉱工業生産は前年同月比3.5%増加だった。4月の5.6%増から鈍化した。基礎資材から住宅に設置される家電など、あらゆる分野で過剰な生産能力は深刻だ。5月、生産者物価指数(PPI)は前年同月比4.6%下落した。

構造的にも、中国の生産は増えづらくなっている。2013年、生産年齢人口(15~64歳)はピークをつけ、それ以降は減少している。労働コストは上昇している。台湾問題など地政学リスクの高まりもあり、インドやASEAN地域などに工場を移す企業は増えた。“世界の工場”としての中国の地位は低下している。

その結果、雇用の環境も悪化した。5月、16~24歳の若年層の調査失業率は20.8%に上昇した。2023年の新卒者数は過去最多の1100万人に達する模様だ。一方、すでに職を得ている人は、景気が停滞する中で職と賃金を守らなければならない。危機感の高まりを背景にストライキも増えているようだ。若い人を中心に雇用、所得の環境は悪化するだろう。