進んだのは「雑誌」離れ
「書籍」と断ったのは、書籍の読書に関するV字回復とは対照的に、「雑誌」の不読率上昇や平均読書冊数減少には歯止めがかかっていないからだ。
書籍の不読率が最悪だった1997年に、雑誌のほうは不読率が小11.6%、中15.3%、高15.6%しかなく、平均読書冊数は小6.9冊、中5.7冊、高5.1冊にのぼっていた。
この数は、雑誌の読書がもっともさかんであった1980年代半ばと比べると減ってきてはいたが(ピーク時の1986年には雑誌を月に小9.3冊、中9.6冊、高8.5冊も読んでいた)、直近2022年では不読率が小59.2%、中51.2%、高67.4%、平均読書冊数は小3.3冊、中3.1冊、高1.7冊しかない。
筆者は学校読書調査をもとに雑誌と書籍の平均読書冊数の合計の推移のグラフを作成してみた(図表4参照)。
これを見ると、小学生は波がありつつも1980年代中盤からそれほど変わっておらず、中高生では明確に減少傾向にある。ということは、2000年代以降の読書推進活動によって、小中学生は書籍をより読むようにはなったが、雑誌を読まなくなった――つまり書籍と雑誌の割合が変わっただけで、トータルとして見ると本(出版物)の読書冊数は増えていない、とも解釈できる。
販売金額でも書籍離れは起きていない
もちろん、出版市場全体で見ても、雑誌のほうが書籍よりも売上の減少傾向が著しく、需要が減り続けていることは無視すべきではない。出版科学研究所調べの推定販売金額を見ると、雑誌は1997年の1兆5644億円をピークに、直近2022年では4795億円と3分の1になった(図表5参照)。
対して、書籍は1996年がピークで市場規模が1兆931億円だったのが、2022年には6497億円と、半減もしていない。しかもこれはあくまで「紙」の数字である。
2022年に「電子雑誌」市場は88億円だが、「電子書籍」はコミック4479億円、文字もの446億円。したがって、紙+電子で市場規模を捉えると、「書籍」はピーク時と比べても遜色のない1兆1000億円規模になり、「出版業界は長期にわたる右肩下がりが今も続いている」という認識も書籍については誤りと言うこともできる。
(ただし細かく言えば、日本の出版流通の制度上、紙のコミックス単行本は「書籍」ではなく「雑誌」コードで扱われるものが多い。一方で電子コミックスは「電子雑誌」ではなく「電子書籍」として扱われる。この点に留意が必要ではある)。