粗食やダイエットで不足させてはいけない栄養素

60歳前後になってくると、食が細くなってくるし、便秘や頻尿の問題で、食べる量や飲む量を意識的に減らしてしまっている人もいます。

こうなると、便の量が減り、腸の動きが弱くなって、さらに食べなくなるという、負のスパイラルに陥りかねません。

何より注意していただきたいのは、粗食や不適切なダイエットによる、たんぱく質不足です。

毎日の食事の中で、たんぱく質をしっかりとらないと加齢とともに筋肉量が減少し、かつ筋力が減少した状態である「サルコペニア」を招きやすくなってしまうからです。

サルコペニアになると、そこから「ロコモ」へ進んでしまう人が出てきます。ロコモとは、ロコモティブシンドロームの略で、運動器(骨、関節、筋肉)に障害があるために、歩行や筋力、バランスなどが低下し、日常生活に影響が出つつある状態、あるいはすでに影響が出ている状態のことで、ひとりで自由に移動することがままならなくなっていきます。

今現在、まだ介護とは無縁の方でも、60歳を過ぎたら1日でも早く予防に努めるにこしたことはありません。

要介護の最初のきっかけとなりやすいサルコペニアを防ぐためにも、食事からしっかりたんぱく質を摂取するよう、十分に注意してください。

日本人の食事摂取基準2020年版によると1日のたんぱく質推奨量は、15~64歳の男性が65g、65歳以上の男性が60g、18歳以上の女性が50gです。欲を言えば、毎食少なくとも20gずつとるのが理想です。

たとえば、以下のような食事です。

【朝食】 食パン8枚切り2枚/8.0g+卵1個50g/6.1g+牛乳(180ml)/6.1g=合計たんぱく質20.2g

【昼食】 ごはん軽く1杯(120g)/3.0g+鶏もも肉(80g)/15.2g+プロセスチーズ1個20g/4.5g=合計たんぱく質22.7g

【夕食】 ごはん軽く1杯(120g)/3.0g+さけ1切れ(80g)/17.8g+納豆小パック(20g)/3.3g=合計たんぱく質24.1g

毎食、しっかり食べてたんぱく質を補い、サルコペニアを予防していきましょう。

腎臓病や腎機能が低下している方は、進行度にあわせてたんぱく質を摂取する必要がありますので、医師あるいは管理栄養士にご相談ください。

たんぱく質の含まれる食材
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60代からは、野菜ではなく「肉・魚ファースト」で

近年、「野菜ファースト」や「ベジファースト」という言葉が広がりました。これは、食事の際、野菜を先に食べることで、血糖値の上昇を穏やかにし、糖尿病などの生活習慣病を予防するという考え方です。

野菜に含まれる食物繊維には、糖質の消化吸収を遅らせるはたらきがあるため、「野菜ファースト」が健康的な食事法として推奨されるようになったのです。

最初に野菜をたっぷり食べると空腹も和らいでくるので、それ以外の食品の食べ過ぎ予防につながり、ダイエットによいと考えられていました。

確かにこうした理屈は、基本的に間違ってはいません。

しかし私は、60歳を過ぎた方には「野菜ファースト」は基本的におすすめできません。なぜなら、野菜を食べることでお腹がかなり満足してしまい、肉や卵といったたんぱく質が食べられなくなってしまう人が意外と多いからです。

先日も、70代の女性にもっとたんぱく質をとるようにと栄養指導をしたのですが、「いつも丼いっぱいの生野菜を食べてから、おかず、ごはんの順番で食べているけれど、野菜だけでお腹がいっぱいになって、おかずは残りがちで、結局ごはんは食べられなくなってしまうことが多いのです」とおっしゃっていました。

これでは、たんぱく質を中心に、栄養がまったく足りない状態です。野菜中心の食事を続けているぶんには問題ないだろうと思われていたようですが、とんでもありません。特に小食の方は、野菜でお腹いっぱいになりやすいので気をつけてほしいです。