介護の「2025年問題」の鍵を握る団塊の世代

いわゆる「2025年問題」は高齢者の医療や介護の需要増大に、施設や人手の供給が追い付かない状態が、2年後の2025年以降に深刻化すると予測されている問題だ。戦後の1947~49年までに生まれた第1次ベビーブーマーの団塊の世代のすべてが後期高齢者である75歳以上となるのが2025年。要介護の需給バランス予想から「介護難民」が発生し、団塊世代がすべて85歳となる35年が介護問題で最大のターニングポイントと専門家は指摘していた。

ところが前述したように、最近の介護施設の入所利用率はコロナ禍などの影響で低下している。今後はどうなるのか。鍵を握るとみられるのが、この団塊の世代なのだ。

未来ビジョン研究所長の阪本節郎さんは高齢者施設への考え方や対応が、団塊の世代とそれ以前で違う可能性があるとみている。つまり、施設側は団塊の世代にフィットしたビジネスモデルに変更する必要が出てくる。

「いまの団塊の世代を含む70代はこれまでの高齢者とまったく異なる『ニューセブンティ』というべき存在です。団塊の世代はいまの若者文化のルーツとなるものを作りだしてきた」(阪本さん)

音楽ならロックやポップス、ファッションならジーンズやミニスカート、長髪などそれまでの世代とは一線を画す流行を作った団塊の世代。家同士のつながりを尊重する見合い結婚に対し、個人の自由を重視する恋愛結婚が増えて逆転したのが1970年前後。結婚スタイルが変わったのも彼らがきっかけだと阪本さんと考えている。

ビーチで笑いがはじけるシニア女性のグループ
写真=iStock.com/bee32
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同研究所が中高年を対象にしたインターネット調査によると、「70代はいくつになっても若々しく、前向きな大人でありたい人」が多く、いまの健康を向上させて生活をさらに充実させ、楽しみたい人の意識が強いという。たけしやタモリなど70代で活躍している芸能人の存在もあり、「じゃあ、自分たちもとなる」(同上)ということらしい。

こうした団塊の世代が高齢者施設の主な利用者となると、施設も変わっていかざるをえず、すでにそうした動きは始まっている。

たとえば「デイケアサロンDANAM新宿」(東京都新宿区中落合)は従来のデイサービスと違うデイケアサロンとなり、カフェにでも行く感覚の空間だという。この施設で使うコーヒーカップは一般施設に多いプラスチックでなく、陶器製のおしゃれなカップだ。

「80代で要介護となっても、団塊の世代は(旧来の)デイサービスだと行きたがらないでしょうが、施設がカフェのような雰囲気なら抵抗がなくなるのではないか」(同上)

さらに、団塊の世代より年配の高齢者では、世話をする子どもなどが中心になって施設を選ぶが、団塊の世代になると、自ら施設を選ぶようになるという。阪本さんは、施設側にとって、団塊の世代が要介護者というより、お客さんになるとみている。施設の運営は、これまでのような介護家族を意識したものから、利用者本位に変わると予想する。

団塊の世代は「にぎやかな人たちで、仲間が大好き」(同上)という特徴もある。いま属性の異なる人が住むシェアハウスが増えているが、施設にもこうしたテイストが合うかもしれないという。さらに、「女性は旦那よりもお友達といっしょにいたい人もいる」(同上)ため、同世代シェアハウスもあるかもしれないとも。