高齢者施設に入りたくても空きがなくケアを受けられない「介護難民」が今後さらに深刻になる。これまでそう予想されてきたが、コロナ禍で状況が変化した。施設の入所利用率が落ち込み、採算ライン割れが続出。赤字で倒産する施設も増えている。そして今、介護業界が注視しているのが「ニューセブンティ」と呼ばれる団塊の世代の動向だ。ジャーナリストの浅井秀樹さんが介護関係者を取材した――。
杖に手を載せているシニア女性
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コロナ禍で介護施設の入所利用率が低下、経営ピンチ

「高齢者施設は最近、売り手市場から買い手市場になりつつある」

国際医療福祉大学教授の高橋泰さん(医療経営管理分野)はそう指摘する。

例えば、常時介護が必要で、在宅生活が難しい高齢者が利用する特別養護老人ホーム(特養)はこれまで入所希望者が多く、入るまでに何年も待つ人が少なくなかったが、「空きが出始めている」(高橋教授)。

また、介護老人保健施設(老健)の場合、福祉医療機構が2023年2月に公表した資料によれば、入所利用率が2021年度に88%(前年比2.3ポイント減)に落ち込んでいる。老健は入所利用率が「95%くらいないと採算が合わない」(同上)こともあり、赤字施設割合が33.8%に拡大している(前年度28%)。経営状況が急激に悪化している施設が増えているのだ。

高齢者は確実に増えているのに、なぜ入所利用率が低下しているのか。

同機構担当者はその要因について「コロナの影響」を挙げる。コロナ禍で病院に行く人や入院する人が減ったことが施設入所者減につながっているのだ。また、施設でクラスターが多発したこともあり、それを回避したい意向もあっただろう。

厚生労働省老健局の担当者は「(入所利用率低下の理由は)明確にコロナかどうかはわからない。ただ、地域の状況にもよるが、ショートステイ(日帰り)の利用がコロナで激減している」と話す。

入所利用率低下が経営に暗い影を落としているのは東京商工リサーチのデータでも明らかだ。2022年の老人福祉・介護事業者の倒産は2000年以降で最多の143件。このうち、コロナ関連倒産は63件だという。施設にとっては介護報酬でサービス料金が固定される一方で、光熱費や食材などの価格上昇を転嫁できず、国からのコロナ関連の支援縮小も背景にあるという。