大学入試で最難関になったのはバブル崩壊以降

大手予備校の河合塾によると国公立大医学部は50校中31校が偏差値65以上(23年度入試、前期日程)の狭き門だ。工学系で65以上の大学は東京大、京都大、東京工業大の3校のみ。高学力受験生に根強い医学部志向を物語る。

ただ、大学入試の歴史の中で医学部が常に最難関だったわけではない。一橋大の高久玲音准教授(医療経済学)によると、1980年代は国公立医学部の平均偏差値は60台前半。私立は55以下だった。「難化は90年代のバブル経済崩壊がきっかけ。企業や公務員が不況のあおりを食った反動だった」と指摘する。

日本経済の停滞が長期化する中で、医学部の志願者数は伸びていった。文部科学省の学校基本調査によると、2022年度入試で医学部志望は約12万人。1992年度の約7万7000人から5割も増えた。この間の受験生が少子化の影響で1割以上減少していることを踏まえると、医学部志向の高まりは顕著だ。

女子アジアの学生グループの後ろに試験でテストを書くことは、タイの学生の制服を着て教室で真剣に最終試験デスクを取って、高校に集中しています。学校に戻る教育評価
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加熱する医学部人気の弊害が出ている

日本の医療水準の向上を考えれば優秀な高校生が医学部を目指すことは歓迎すべきことだ。だが過熱する医学部人気は、理系人材の偏在を招くとの懸念も広がる。2019年に経済産業省がまとめた「理数系人材の産業界での活躍に向けた意見交換会」の報告書。IT(情報技術)機器の普及やAI(人工知能)、ビッグデータの活用といったデジタル革命の時代に欠かすことのできない学間として「第一に数学、第二に数学、そして第三に数学だ」と訴えた。

日本にはデジタル時代の国際競争を勝ち抜くための土壌が広がっている。OECD(経済協力開発機構)が実施した18年度の「生徒の学習到達度調査(PISA)」によると、参加した79カ国・地域のうち高校ー年にあたる15歳の「数学的リテラシー」は6位、「科学的リテラシー」は5位と世界トップ水準だった。OECD加盟国に限定すると、数学は1位だ。にもかかわらず、20世紀末からのデジタル革命で日本人の存在感は今ひとつ薄い。

原因の一つに挙げられるのが、過熱する医学部人気だ。先の経産省の意見交換会報告書は「数学人材の育成が急務」と指摘した上で、「日本の中高生は数学の高い潜在能力があるのに、国際数学オリンピックの予選通過者では医学系へ進む人が多い」と危機感を募らせる。しかし、受験生や進学校、行政の根強い医学部信仰がそれを阻む。