「誰かの不在が、誰かに負担をかける」ことが起こりにくい

最後に、働き方の違いをもう1点。フランスの同僚の勤務医はみんな、自分の仕事が終わったらさっさと帰る。日本だと上司の医師がいたら自分の仕事が終わっても帰宅しづらい……ということがありますが、フランスではそれは全くないです。会議中でも「子どものお迎えの時間だから帰ります」と、19時頃に医師が抜けていきます。上司の教授がいても「あ、また明日ね。お疲れさん」で済んでしまう。そのへんがサクッとしているのは良いですね。

髙崎順子『休暇のマネジメント 28連休を実現するための仕組みと働き方』(KADOKAWA)
髙崎順子『休暇のマネジメント 28連休を実現するための仕組みと働き方』(KADOKAWA)

このような仕組みやスタンスで回っているので、フランスの病院では、「誰かの不在が、残った誰かに負担をかける」ということが起こりにくくなっています。

だからでしょう、フランスの勤務医は研修医も専門医も常勤医も、教授クラスでも、数週間のバカンスを取得できます。医師のバカンス次第で手術の日程が変わるのはよくあることですし、それは開業医のほうも同じと聞きます。患者さん達も、執刀医が学会やバカンスでいないとなっても「あ、そうなの。じゃあ仕方ないわ」と。医師であっても、ちゃんとバカンスを取って休暇を楽しむのが当たり前なんです。9月に病院に戻ると、患者さん達も「きれいに日焼けしたね。バカンスをしっかり楽しめて良かったね」と明るく会話をしてくれます。

バカンス後は「遊んだから仕事しなくちゃ!」と思える

私自身もフランスで働くうち、バカンスが仕事に必要なメリハリと考えるようになりました。今では春先あたりから、夏を楽しみに働くようになっています。4週間、家族としっかり遊んで、バカンスが終わると「だいぶ遊んだから仕事しなくちゃ!」と思える。

日本で働いていた経験を振り返ると、担当医制は、医師個人への負担がどうしても大きくなってしまうと感じます。業務量的にも、患者さんとの精神的な関係や責任面でも。担当医制は患者さんと医師の信頼関係が密に築けますが、その関係が深くなりすぎる危険もあります。

2024年からは日本でも、医師の働き方改革が始まります。「休まない・休めない・休みにくい」日本の医師の働き方を考えるために、フランスで私が経験した当番制や分業の考え方が何か役に立てればと、インタビューに協力しました。

年5週間休める働き方のポイント
■医療以外の業務スタッフとも分業し、雑務を減らす
■当番制で「チームの誰がやっても同じゴールの治療」をする
■誰かの不在が同僚の負担にならない仕組みを作る

出典
*1 パリ公立病院連合(通称AP-HP)の救急専門対応について 2023年3月閲覧
Assistance Publique - Hôpitaux de Paris, “Pour les professionnels : les urgences spécialisées qui nécessitent d’être adressées par un médecin”, consulté en mars 2023
Hôpital Lariboisière, “Accueil de la Grande Garde de Neurochirurgie”, consulté en mars 2023
AP-HPの一つ、ラリボワジエール病院の脳神経外科では、6日に1日の「大当直」の日に以下の医療者を24時間体制で配置し、イル・ド・フランス県の脳神経急患を受け入れている。
脳神経外科医2名、手術室神経放射線科医1名、脳神経外科研修医2名、同非常勤医2名、麻酔医2名、上級蘇生医1名、蘇生研修医1名、看護師2名、看護助手1名、手術室専門看護師2名、麻酔看護師1名

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