「水の県外流出阻止」に固執する川勝知事
リニア中央新幹線は、東京―名古屋間を最短の約40分で結ぶ。山梨、静岡、長野の3県の南アルプス山岳地帯約25キロ区間を地下400メートル超のトンネルで貫通する。
3000メートル級の山々が連なる南アルプス山岳地帯は、糸魚川静岡構造線、中央構造線が通る「世界最大級の断層帯」でもある。
この断層帯は破砕された脆弱な地層が多く分布し、大量の突発湧水など、実際に掘ってみなければ何が起きるのか全くわからないほど不確実性が高い地域だ。それだけに早期着工して、現地で調査ボーリングなどを重ね、不確実性を取り除いて工事を進めていかなければならない。
特に、静岡工区(約8.9キロ)は畑薙断層帯などが続く最難関区域であり、事前調査は不可欠だ。
にもかかわらず、川勝知事は病的なまでに「水の県外流出阻止」に固執し、JR東海の工事の着工を阻んできた。
現在でも、工事の基地となる準備工事にさえ入れない状況が続いている。
「毎秒2トンの流出」は「62万人の生死に関わる」と主張
2011年5月、国はリニア中央新幹線の整備計画を決定し、JR東海に建設を指示した。
JR東海は2013年9月、リニア工事に伴う環境影響評価準備書で「リニアトンネル工事で大井川上流部の流量が毎秒2トン減少する」と予測した。不安を抱いた大井川流域首長らの要望を受けた静岡県は「トンネル湧水を大井川へ戻す対策を求める」などの知事意見書をJR東海に送った。
意見書を受け、JR東海は17年1月までに、リニアトンネルから大井川まで導水路トンネルを設置して、湧水により減少する毎秒約2トン分のうち、約1.3トンを回復させ、残りの約0.7トンは必要に応じてポンプアップで戻す対策を発表した。
全量ではなく1.3トンとしたのは、全量を戻さなくても豊富な水源をもつ大井川の環境に影響がないためだ。
だが、この対策に川勝知事は納得しなかった。
JR東海が「毎秒2トンの全量戻し」を表明しなかったことに対し、川勝知事は「静岡県の6人に1人が塗炭の苦しみを味わう」と厳しい言葉でJR東海の姿勢を非難。さらに、大井川を利用した広域水道の流域7市(島田、焼津、掛川、藤枝、御前崎、菊川、牧之原)の人口を持ち出し「全量戻してもらう。水道水を利用する62万人の生死に関わる」などと怒りをあらわにした。
さらに、「もうルートを変えたほうがいい。水が止まったら(枯渇したら)、もう戻せない。そうなったら、おとなしい静岡の人たちがリニア新幹線の線路に座り込みますよ」などと「ルート変更」まで持ち出して脅した。