このように、ヨーロッパではエネルギーコストが増大している。これはヨーロッパの国際競争力、つまり輸出にとってマイナスに働く。輸出が伸びなければ、貿易収支の黒字幅が増えていく展望も描けない。つまるところ、ユーロ圏の経常収支は、黒字に転換するとしても、その幅はこれまでに比べるとかなり圧縮されると考えるほうが自然である。
過度な再エネ依存は日本を滅ぼすことになる
以上、ヨーロッパ経済の問題点を整理すると、ユーロは決して強い通貨とは言えないばかりか、むしろ弱い通貨と考えるべきだという結論になる。では日本円の方が強いかというと、それもまた難しいところである。日本の場合、経常収支はまだ黒字を保っているが、貿易収支の赤字幅はヨーロッパと同様に、燃料高の影響で拡大が続いている(図表5)。
燃料高が一服したとしても、輸出が力強く伸びない限り、貿易収支が黒字に転換するとは見込みにくい。加えて、日本が金利を引き上げることは容易ではない。そのため、実態面でも金融面でも、日本円は買い材料に乏しい通貨になってしまっている。そのことが、かつてに比べて「リスクオフの円買い」が起きにくくなっている主な理由だ。
日本はすでに、円の購買力をどう維持するか、という時代に突入している。過度な円高を悲観するのではなく、今後は円安をどう食い止めていくかという時代になっている。日本円がユーロと同様にエネルギーインフレ通貨としての性格を強めれば、日本の場合、金利の引き上げ余地も小さいため、購買力の維持は一段と難しくなる。
資源に乏しい日本経済にとって、エネルギーの安定供給は最優先課題のはずである。その日本が「ショルツ改悪」と同じ道筋をたどることなどできないはずだ。脱炭素や脱ロシアの取り組みが重要とはいえ、ヨーロッパと同様に、再エネだけに注力するようなエネルギー政策は、日本の経済構造を考えた場合、得策とは言えないだろう。
(寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)