新任所長の役割

話は少し前後する。『企業参謀』が出版されるまで、思うように業績が上がらず、マッキンゼー東京事務所は閉鎖の危機に追い込まれていたことはすでに書いた。

初代所長のジョン・トームは失意のうちにアメリカに引き戻され、代ってやってきたのがクインス・ハンシッカーというスイス人だった。

ハンシッカーは当時のマッキンゼーのトップクラスのコンサルタントで、スイス事務所を運営していた。しかし、日本市場のほうが可能性は大きいということで、東京事務所を継続するか、閉めるかの最終判断をするために送り込まれてきたのだ。

事務所の内装や調度に凝ったり、時折、東京会館でディナーパーティーを催すなど、前任のジョン・トームは割と派手好きだったが、ハンシッカーは対照的なコストカッターで、スパゲティーディナーがせいぜいである。

しかし、こと分析手法に関しては、アンガス・カニングハム(当連載第26回『日本で最初の大きな仕事』 http://president.jp/articles/-/6713 参照)同様、この人物にも大変お世話になった。

カニングハムはひたすら細部にこだわって分析をしつこくやるタイプだが、ハンシッカーの場合、sequential analysis(逐次解析)といって、大きなテーマを切り刻んで小さな塊にして分析したり、逆に小さいものをひとつの大きな塊にまとめて、それが経営的にどういう意味があるのかを探っていく分析手法を得意としていた。一言で言えば、大きな“絵”を見せるのが上手だった。

やはり議論好きで、カニングハムと違ってニコニコしているが、話し出したら止まらない。一度、サンフランシスコからの帰りに運悪く彼と同じ便になったら、隣に座り込んで議論を止めない。いわゆるdevils advocate(議論の妥当性を確かめるためにわざと反対意見を述べる)で、さまざまな観点から議論をしたがるのだ。