名指しで仕事が次々と
『企業参謀』は「日本初の本格的経営書」などと紹介されているが嘘っぱちで、そもそもはビジネスのことを知らない人間がどうやってビジネスを学んだかを書いた入門書である。それがどういうわけか、経営者のマインドに刺さって大ヒットになった。
『企業参謀』が売れたおかげで何が助かったといえば、提案書を書く必要がなくなったことだ。「あの本に書いてある○○分析をやって欲しい」「我が社にもこういう戦略が必要だ」と、先方が本の内容を理解した上で仕事の依頼をしてくるようになった。
余計なイントロダクションも要らない。スケジュールと金銭的な問題をクリアすれば、すぐに仕事に取り掛かることができた。
コンサルタントがどんな仕事をするのかを解説した『企業参謀』に続き、2冊目の『続企業参謀』(1977年刊)では分析や課題解決、戦略策定の具体的な手法を書いたので、説明負担が一気に減じた。「これでお願いします」と来るのだから、カタログ販売みたいなものである。
最初の頃は「マッキンゼーはアメリカの会社だから情報漏洩の心配がある」という声もあったが、そのうちマッキンゼーがアメリカの会社であることは忘れられたようで、「大前さん、お願いします」と名指しの仕事が次々と舞い込んだ。
当然、一人では時間的にも物理的にもとても対応しきれなくなって、手配師のように事務所のメンバ—に仕事を割り振った。