文句を言われる筋合いはない

マッキンゼーをリタイアしたとはいえ大きな影響力を持っているマービン・バウワーから『企業参謀』の英訳版、『The Mind of The Strategist』の出版に物言いがついた。理由は原稿を読んだ親友のピーター・ドラッカーが大反対しているからだという。

アメリカではすでにドラッカーは経営学者として有名だったが、私は経営の世界に入ったばかりだから知らない。知らないオッサンにガタガタ文句を言われる筋合いはない。

バウワーはドラッカーから、『The Mind of The Strategist』のどこが問題なのかを直接聞き出してきた。曰く、

「世界にJapanese Managementを広めたのは私だ。その自分について一言も言及してないし、reference book(参考文献)にも出ていない。これは許し難い」

実際、自分が実務で経営を勉強した過程を書いただけで、ドラッカーの本など手に取ったこともないのだから、まったくの言い掛かりである。そう突っぱねたが、バウワーも「私の友人の言い分も正しい。世界中の人はドラッカーを通じて日本の経営を知った。お前も経営書を出すなら、参考文献にドラッカーの本を入れるくらいの妥協はできないのか」と引かない。

この問題でバウワーと私の関係は一時期険悪になり、しばらく揉めた。解決策を見出したのは『The Mind of The Strategist』のチーフ・エディターを務めたローランド・マン。前文に「日本の経営について語るとき、ドラッカーのような先達の影響を受けてないとはいえない」という一文を入れることを彼は提案してきた。

ドラッカーの影響などまったく受けていないし、文脈的にも違和感はあったが、問題をこじらせないためには仕方がない。渋々受け入れて一文を加えた原稿をバウワーがドラッカーのところに持っていったら「これならよろしい」とOKが出た。