実業団とプロ選手の違い

春からニューバランス所属のプロ選手になった田中。西脇工高時代は他のチームメイトと同様にアシックスのシューズを着用していたが、大学1年時からニューバランスのサポートを受けている。

なお豊田自動織機は昨季1年間、実業団選手として所属していただけでなく、クラブチーム時代からサポートを受けていた(※大学2~4年時は「豊田自動織機TC」の所属だった)

今季から豊田自動織機の支援はなくなるが、ニューバランスからはこれまで以上のサポートを受けるようになる。環境面でいうと、実業団選手からプロ選手になったからといって劇的な違いがあるわけではない。

では、陸上選手のプロとは何なのか。実業団との違いはどこにあるのだろうか。

実業団所属というスタイルは日本独自のもので、世界的にはほとんどない。陸上の世界トップクラスの選手はみな各スポーツメーカーと契約を結んでいる。今回の田中と同じスタイルだ。

日本人選手では大迫傑がナイキに所属しているが、実業団に所属している選手でもスポーツメーカーと契約を結んでいるケースは少なくない。

契約金は実力と人気で変わってくる。ウサイン・ボルトのような超スーパースターになれば破格の待遇だが、商品提供がメインという選手も多い。契約金がある場合でも年間、数百万円から数千万円が相場だ。

一方、実業団選手の収入は所属している会社の規定になる。基本的には同年代の一般社員と同額で、なかには競技結果に応じてボーナスを出す会社もある。プロ選手になった田中の年収は一般的な実業団選手の数倍といったところか。

ただし、実業団の場合は競技を引退した後も、正社員として会社に残れるところが大半だ。反対にプロ選手は結果が出なければ、契約を打ち切られてしまう。将来を考えるなら、実業団選手として競技を続けた方が安心といえるだろう。田中は、現役引退しても給料がもらえる可能性が高い“古巣”を思い切って飛び出したわけだ。

スポーツメーカーとの契約にはもうひとつのリスクがある。別メーカーから画期的なギアが登場した場合、それを使用するのが難しくなるのだ。実業団選手のなかには、あえてシューズブランドとは契約せずに、自由にシューズを選べるような対策をとっている者もいる。

競技場のトラックを走るランナーの足元
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そして活動内容も実業団とプロは異なる。日本の実業団の場合は企業名が全面にアピールできる「駅伝」が大きな柱になる。田中も昨年は11月のクイーンズ駅伝(全日本女子実業団駅伝)に出場(1区2位)した。

その点、プロになれば駅伝に出る必要はなく、自分自身で考えて、世界を目指すような活動に集中できる。田中も、「今後はチーム・ニューバランス・ボストンで練習する機会や、ケニアでの練習を増やしていきたい。国内でも実業団、学生、高校という枠組みをすべて取っ払って、こちらから絡んでいったり、逆に絡んでもらったりするのが可能になってくる。国内外問わずいろんな方と縁を結んでいきたいなと思っています」とトレーニング面でも新たな可能性を探っていきたい考えだ。