貧しい身分から出世し天下統一を果たした豊臣秀吉とはどんな人物だったのか。歴史学者の濱田浩一郎さんは「目的のためなら人の命を何とも思わない武将だった。それは、彼が行った城攻めに見ることができる」という――。
重要文化財《豊臣秀吉像》(部分)。慶長3年(1598)賛 京都・高台寺蔵。
重要文化財《豊臣秀吉像》(部分)。慶長3年(1598)賛 京都・高台寺蔵。(写真=大阪市立美術館/CC-PD-Mark/Wikimedia Commons

「どうする家康」の秀吉はなんだか不気味

NHK大河ドラマ「どうする家康」では、俳優のムロツヨシさんが豊臣秀吉を演じている。織田信長の家臣として登場した秀吉であるが、ムロさんの「怪演」もあり、話題となっている。

秀吉の初登場は第4回「清須でどうする!」(1月29日放送)だった。織田家重臣の柴田勝家に「猿!」と呼ばれて、「へいへい、へーい!」と登場した秀吉に対し、勝家は背後から急に蹴りをくらわす。

秀吉は怒りに震えるのかと思いきや、それを気にもとめていない様子。そればかりか、信長と会見するため清須に来ていた松平元康(徳川家康)一行にも、なぜか、尻を向けて、蹴りを要求するのであった。

家康に対し、秀吉が信長の戦のやり方について解説するシーンでは、嬉しそうに話をしているようでいて、秀吉の目の奥は醒めたままだった。その様子にSNSでは「狂気が感じられる」「闇深い」「不気味」などの感想が相次いでいた。

貧しい境遇から、信長に仕えて立身出世し、ついには天下統一を成し遂げた。

そんな秀吉は、これまで何度も時代劇や大河ドラマ、歴史小説などに取り上げられてきた。フィクションに描かれてきた秀吉の性質にはいくつかのパターンがある。

決して天下を獲ったから傲慢になったのではない

例えば、1996年に放送された大河ドラマ「秀吉」は、秀吉役を竹中直人さんが演じ、その明るくパワフルな演技が話題となった作品だ。そこでの秀吉は、織田家臣時代では庶民的で命を重んじていたが、出世とともに、傲慢になっていく姿が描かれていた。

同じく大河ドラマ「軍師官兵衛」(2014年)では、2度目の秀吉を演じた竹中直人さんが、甥の豊臣秀次一族の惨殺や、朝鮮出兵など、天下を取った後の堕ちてゆく太閤を演じた。

剽軽、明るい、人たらし。しかし、時を経て権力を得るに従ってその性格は変質し、残忍で傲慢な「専制君主」となっていく……。多くの方が想像する秀吉像は、ざっとこのようなものではないか。

しかし、史実はそうではなかったのである。彼による「悪行」は、年齢を問わず行われており、またとてもドラマでは放送できないようなものなのだ。