組織内には「くまのぷーさん」的人材が不可欠である

現代のビジネス社会では、拙速が尊ばれるために、安易なステレオタイプ化がどんどん広がっていく。大量情報の負荷を軽くするために、ものごとや人間をある程度ステレオタイプ的に理解することはそれなりの効果もあるのだが、その副作用に気がつかないと、組織はとんでもない方向につきすすむことになる。山本七平は第二次世界大戦中の日本陸軍の病理的な思考をあざやかに解明した人だが、彼はその著書で「日本軍の行き方は常に『速戦即決、前面の敵を片づける』のである。――片づける、明らかにわれわれは常に何かを片づけようとし、片づかないと『自分の気持が片づかない』。従ってこの片づけの前提は、先験的な枠にはめられた『絶対的な見方』の基礎をなす心的秩序なのである」と述べている。

あなたの会社は目の前の赤字に対して、「速戦即決」的に安易な経費節減策だけで、赤字を「片づけ」ようとしてはいないだろうか?

ステレオタイプ的にものごとや人間をみることで、ものごとや人間を「片づける」心理になりやすく、「絶対的な見方」に縛られるリスクを高めてしまう。手早く「片づけて」しまうために、仕事は確かに速くなるのだが、「絶対的な見方」はうつ病や人格障害の温床でもあり、抑うつ、軽蔑、嫌悪、苛立ちなどの情動を引き起こしやすくなる。先に紹介したPNSのスコアが高い人は、ステレオタイプな理解をしやすいという傾向がみられ、かつ、神経過敏な傾向もある。つまり仕事の速い人(もちろん仕事の速い人全員ではないが)は、ステレオタイプな思考をしやすく、ちょっとしたことでいらいらしやすくなる、ということになる。

仕事の遅い人は、初めての仕事で戸惑っている人をのぞけば、多様な視点からものごとや人間をみつつ、柔軟に、安定した情動をもって仕事をしている貴重な人材なのである。ディズニーのアニメーションでたとえれば、「くまのプーさん」のような人である。「くまのプーさん」はゆったりと生きているが、ときおり仲間が考えつかないような意見を言って、仲間に新しい気づきを与える。成果主義的人事施策をとると、仕事の速い人を高く評価しがちになる。そのために、せかせかと動きまわる人が多くなり、固定的なものの見方が蔓延し、組織は、あたかも帝国陸軍のように崩壊していく。そのリスクを小さくするために、仕事は遅いが、多様な視点にたち、柔軟に考える人材が必要なのである。

「くまのプーさん」的な人は、PNSのスコアが低い傾向がある。同時に「勤勉性(Conscientiousness)」も低くなる傾向があって、なまけもの的にみられがちでもある。しかし企業が健全に賢明に発展していくためには、不可欠の人材ではないだろうか。