タクシー運転手が教えてくれた「夏の日に感じられる豊かさ」
出来事や状況に対する「つぶやき(受け止め方)」は無数にあって、どれでも自由に選べます。
今から数年前のことですが、日本有数のサーキット場で働く全スタッフを対象とした講演会の依頼を受け、栃木県までうかがったことがあります。そのサーキット場は宇都宮駅からタクシーで1時間半ほどの距離にあります。
駅に到着し、すぐにタクシーに乗りこみ行く先を運転手に告げました。「あいよ!」という威勢のいい返事が返ってきたので、ふと乗務員カードに目をやると70歳代ぐらいのベテランの運転手さんでした。
車が駅から出発してしばらくすると、私の額には汗がにじんできました。そのときは八月の初旬、ニュースではこの夏一番の暑さになるとの予報でしたが、なんとタクシーの車内にはエアコンが効いておらず、窓が半分ずつ開いているだけでした。
おそらく年配の運転手さんなので、一日中エアコンの効いている車内で仕事をしていると体調が悪くなるのかもしれないと考え、がまんしていました。
しかし、あまりにも汗が流れてくるようになり、エアコンを入れてもらえるように申し出ようと思ったそのとき、運転手さんに先に話しかけられました。
「いやー、お客さん。夏のこの盛りに、汗をかいて暑さを感じられるのは豊かなもんですなー」
その私の中にはなかった「つぶやき」に驚きながらも、思わずその言葉を繰り返してしまいました。
「いやー、ほんとに豊かなものですねー」
そのときに、私の中のつぶやきが変わったのを感じました。
それまでは汗をかいて不快を感じていたのですが、
「講演会場には気持ちよく向かうべきだ」、「タクシーの中では涼しく快適であるべきだ」、「お客であるからにはエアコンを効かせてもらうのが当たり前だ」、「汗でシャツが濡れてはいけない」……などなど、不快を感じるつぶやきが私の中にあったのでしょう。
幸せな人は、幸せを「選んだ」人
しかし運転手さんの言葉を繰り返してからは、
「そうか、それもいいな」
「季節を楽しむのも1つだ」
「シャツならかばんの中に着替えがたくさん入っている」
「講演前に着替えて、パリッとして出ていったほうが気持ちがいいかもしれないな」
「何よりも、今この時間を楽しんでみよう」
というつぶやきが、心の中に出てきたのです。
そして運転手さんにそのことを話すと、ずいぶん喜んでもらえて、そのあともさまざまな話題で盛り上がりました。
さすがに人生の大先輩で、運転手さんはいろいろな体験があったそうです。その中でも思い出になっていることは、突然の予期せぬこと、逆境などだそうです。
その話の終わりには、「人生いろいろある。でも出来事や逆境が人を不幸に陥れるのではなく、それをどう捉え、次に生かしていくのかということだ」という結論で意気投合したのです。
そうなのでしょう。「幸せな人は、人生の出来事に対する無数の解釈の中から、幸せなものを選んだ人」なのです。