念願の「座って働く仕事」に就く
サンサンさんは走りながらバイトに追われ、暮らしに追われ、気がつけば20代になっていた。ある日ミャンマー出身の知人から相談を受けた。
「印刷会社に採用されたのだけど、日本語ができなくて困っている。すぐやめるとお給料がもらえないから代わりに行ってくれないか」。サンサンさんは知人の助けになるならと印刷会社に連絡し、履歴書を用意して面接に行った。「えっ、また外国人なの」と驚かれたものの、電話の声では日本人と区別がつかないほど日本語が上手だったサンサンさんは採用された。
「座って働く仕事でしたよ! ランチタイムもあって、ゆっくりお昼ごはんが食べられる。すっごく! うれしかった」
本当にうれしそうにサンサンさんは笑った。
昼間は印刷会社で働き、夜は居酒屋でのアルバイトという生活が始まった。もちろん実家のお母さんへの仕送りが最大の目的だ。
「でもね、うちの母はたくさんの人の面倒を見ていたから、私がいくら仕送りしても足りないんですよ」
とサンサンさんは苦笑した。そうだった……。お母さんは「なんとかなる」精神で、集まってくる人すべてに手を差し伸べる奇特すぎる看護師さん。サンサンさんの仕送りは瞬く間に人助けに使われ、お母さんの暮らしは楽にならないままなのだった。
神の存在を確かめるために神学校へ入学
「それで、あるとき、私決めたの。だったらもう徹底的にやってやろう、どうせ貧乏なんだからどん底まで行こうって」
徹底的にどん底までって……。サンサンさんのことばに、わたしはたじろいだ。それは危ないバイトに手を染めるという意味だろうか。そっとサンサンさんの顔を見上げる。
「勇気を出して、夜のバイトをやめて学校に行くことにしたんです」
え?
じつは寝る間も座る間もなく働きづめだったとき、サンサンさんは神様に祈っていた。
「神様、このまま疲れ切って人生を終わりたくないです。もし本当に神様がいるなら、この状況を変えてください」。そうしたら印刷会社に就職することができた。さらに、オーバーステイでも入学させてくれる夜間の学校が見つかった。キリスト教を教える学校だった。
「神様って本当にいるのかな? という疑問をちゃんと調べてみたかった。きっと自分は結婚もしないでひとりで生きていく人生だろうから、勉強するのもいいなって」