「日の当たらない人」がハマリ役だった

いや、しかしだな、サクラがこれほどしっくりハマったのはなぜか。もともとは、「やさぐれた女」「うらぶれた女」「不遇の女」の役が抜群だった。

運も金も才能ももたず、人の欲や罪にさとくて真理を突いたり、不遇をのみこむしかない不幸な女。映画『その夜の侍』(2012)では暇を飼い殺すホテトル嬢役、ドラマ「ママゴト」(NHK・2016)では自身の不遇と不幸に諦観しているスナックママの役、そして映画『追憶』(2017)ではヤクザの元情婦で、晩年は交通事故で高次機能障害になる役。

日当たりのよくない世界の住民をまんまと体現して、着実にモノにしてきた、そんな印象だ。

そういえば、第46回日本アカデミー賞で最優秀助演女優賞を獲った『ある男』(2022)でも、深い悲しみと喪失感を乗り越えた矢先、再び不運かつ不可解な状況(夫が別人だった)に直面するシングルマザーという難役だった。

「ブラッシュアップライフ」のサクラは、スポットライトを浴びるわけではないが、日の当たる世界の住民だ。「早死に」という自身最大の不幸を苦にせず、粛々と友人や家族を救うミッションをこなしていく。その姿に妙な説得力があったのは、サクラが演じてきた女にある共通項があったから。

弱き者を「守る女」という共通項

安藤サクラは人を救う。その方法は必ずしも正しいとはいえないが、人を守ってきた。自分の子どもだけでなく不遇な子どもを、あるいは孤独な老人を。その守りっぷりを振り返ってみよう。

ドラマ「贖罪」(WOWOW・2012年)では、小学校で遊んでいた友達が何者かに殺され、その母親(小泉今日子)から償いを要求された女子のひとり。第3話がサクラ演じる晶子の物語だ。

晶子は警察に留置されているが精神的に興奮状態。自分の姪を性被害から「守る」ことで過去の罪を償ったと訴える。家族を殺害した容疑で逮捕されたが、警察では精神鑑定扱いをにおわせる強烈な役だった。

「カラマーゾフの兄弟」(フジ・2013)では、横暴な夫(吉田鋼太郎)から3人の息子たち(市原隼人・斎藤工・林遣都)を「守ろうとする」が無力だった母の役。