熱狂の航海のためには何が必要か

本稿で決めるそれぞれの要素がどのような機能を持つのか、チームのみんなで航海に出ることをイメージするとわかりやすいと思います。

ヨットとヨット、ドローンからの眺め
写真=iStock.com/mbbirdy
※写真はイメージです

●パーパスは目的

パーパスは航海の目的です。「何のために、旅に出るんだろう?」ということを、チームで共有するためのものです。チームの存在意義とも言えるでしょう。

●ビジョンは目的地

ビジョンは航海の目的地です。最終的に得たい成果、実現したい未来をチームで共有するためのものです。

ただ「前人未踏の島に行きたい」というのではなく、「半径2キロくらいの大きさの島で、パパイヤやマンゴーが育っている。魚釣りをできる岸辺があって、森の中には鹿やイノシシもいて食べ物に困ることがない。島の中央にある山の頂上には、たくさんの財宝がある」といったように、ビジュアルとしてイメージを持てることが大事です。「絶対にここに行きたい」と明確にイメージできることが、試練を乗り越える原動力になります。

●バリューズは方位磁石

バリューズは方位磁石。「こういう行動を取っていれば目的地に近づいていく」という日々の行動判断の基準です。

目的地に向かって正しく進んでいるかどうかをチェックし、試練に直面して航路から逸れそうなときに、向かうべき方向を指し示してくれます。

●戦略と目標は地図と航路

航海の目的地は、遥か彼方にあります。船には限られた量の食糧や水、燃料しか積むことはできません。目的地に向けて真っ直ぐ進めばいいわけではなく、補給や休憩のための中継地が必要です。

それを踏まえて、目的地に向けた最短の、かつ自分たちの強みが最も生きる航路を地図上に描いてく。これが「戦略」です。

そして、その中継地1つひとつが「目標」です。「1カ月でA島まで行こう」「そこで食料を補給して、次のB島にたどり着こう」と決めていきます。バラバラに動くのではなく全体最適な行動のためには、戦略と目標が乗組員全員に共有されていることが必須です。

●役割

目的も決まって、目的地も見えて、方位磁石や航路を描いた地図もある。しかし、誰が舵を切るのか、誰が方位磁石や航路をチェックするのか、あるいは誰が料理をするのかが明確でなければ、それぞれが適切な動きを取ることができません。海を進むための「役割」が必要です。

●仕組み

船に新たな人を追加する、燃料や食料を調達するなどといった際に、誰が、どこまで意思決定できるのかの「仕組み」が明確でなければ、スピード感を持った主体的な判断ができません。

また、各クルーが得た情報や船全体の現状理解の情報がタイムリーに共有し合い、必要に応じて船全体の戦略や目標が軌道修正できる仕組みがあることも、自律的な働き方を支える上で重要な要素となります。

想定を超える成果を生み出すために

金儲けのためにビジョンは要らない。ビジョンがなくても儲かる企業は間違いなくつくれる。説得力のあるビジョンがなくても、大金持ちになった人はたくさんいる。
だがあなたが金儲けだけが目的ではない、時代を超えて存続する偉大な企業をつくりたいなら、ビジョンが必要だ。
ジム・コリンズ、ビル・ラジアー著『ビジョナリー・カンパニーZERO

リーダーや経営者がメンバーの動きを全て監視して、トップダウンで細かく指示を出せば、統制の取れた組織をつくり上げることもできるのかもしれません。ただし、それでは主体性は生まれません。主体性が生まれなければ熱狂が生まれず、想定を超える成果を生み出すこともできません。

一方で、メンバーに権限と自由を与えて思うままに行動してもらう方法もあります。しかしこれもチームの勢いが続かない懸念があります。

お互いの優先度や価値観のぶつかり合いもあり、その衝突の解消に都度リーダーのリソースを奪われてしまいます。そうしてだんだんとチーム全体の熱が冷めていきます。

リーダーの熱狂によって巻き込んだ人を、さらに熱狂させる。そうしてチームの力はどんどん大きくなっていきます。そのための最も大きなポイントは、メンバーがビジョンやパーパスを自分事化できるかどうかです。