「今日食べたいもの」も腸が決めているという最新研究

今日は「脂のこってりしたものが食べたいな」とか、「あっさりした食事がしたい」という考えは、自分の意思で行っていると思っている人も多いでしょう。しかし、それは間違いかもしれません。なぜなら腸が決めているという研究結果があるからです。

人の消化管には1000種以上の腸内細菌が生息しており、腸内細菌は人が摂取した食べ物からエネルギーを得て生きています。また、人間に共生している腸内細菌はエネルギーを与えてもらうのと引き換えに、消化を助けたり、悪玉の腸内細菌を退治したりしてホスト(人)の体調を整えてくれていることも知られています。

腸内細菌でいっぱいの腸内のイメージ
写真=iStock.com/ChrisChrisW
※写真はイメージです

普段は腸内細菌の存在を意識することはありませんが、人間と腸内細菌は持ちつ持たれつの関係を保っているというわけです。このように、人にとってありがたい存在の腸内細菌ですが、人の体調を管理してくれているだけでも人の食べ物の選択をも管理している可能性を、カリフォルニア大学のマーレイ教授らの研究グループが指摘しています(*1)

それによると、腸内細菌は猛烈な生存競争をしており、細菌同士の生存競争の過程で人の食べ物に対する欲求にも影響を与えているとのこと。具体的には、腸内細菌は他の種の腸内細菌との生存競争に勝つために、自分がより成長できる栄養素を摂取するよう人間に働きかけたり、逆にライバル種の腸内細菌が欲する栄養素を抑制するよう働きかけたりと、「綱引き」を行っているとしています。

(*1)Alcock J, Maley CC, Aktipis CA. Is eating behavior manipulated by the gastrointestinal microbiota? Evolutionary pressures and potential mechanisms. Bioessays. 2014;36(10):940-9.

腸内細菌が食欲を操っている可能性が指摘された

この綱引きでは、腸内細菌は宿主の味覚を感じる味覚受容体を変化させて特定の食品をよりおいしく感じさせたり、空腹を誘発するホルモンを出したり、食べ物の摂取を抑制するように迷走神経を操作したりするとのことです。さらに、腸内細菌は他の種の腸内細菌との生存競争に打ち勝つために、宿主の健康増進よりも自らの種の繁栄に有利になるように働きかけることさえあると指摘しています。

つまり、高脂質の食事を餌にしている細菌が、あなたの食欲を操ることすらあるのです。

私たちが何を食べるかによって胃腸の中の腸内細菌の状態が変化することがわかっています。どの腸内細菌が多いか少ないかによって、活性化される遺伝子や吸収される栄養素が変わってくることも判明しています。無菌のマウスでは食べた脂肪の吸収が悪くなるようです。

さらに、食べ物と腸内細菌の関係は一方通行ではなく、「食べ物に細菌が影響される」だけでなく、「細菌の状態によって食べたいものが変わる」のですが、これまで、実際のところどのようにして腸内細菌が私たちの食べるものに影響を及ぼしいるのかはわかっていませんでした。

マウスの胃に直接エサを注入して摂食行動が味覚の影響を受けないようにした実験により、内臓が脳と連携して何を食べるかを決定するメカニズムの詳細が明らかになりました。