親友と妻の後押しで「会社、辞めます」
塚田さんは、学生時代からの親友に心境を打ち明けた。親友は、データサイエンスの会社を起業して成功を収めている人物である。彼は、腐りかけている塚田さんに再起を促した。
「英次郎は、やりたいことやったほうがいいよ。一緒に、米国での抹茶の挑戦を続けよう」
妻の志乃さんも、米国で再チャレンジしたいという塚田さんの気持ちを肯定してくれた。2019年3月、ついに塚田さんは21年間勤めたサントリーを退社することになった。
「自分は米国での抹茶の可能性を信じています。サントリーの中でできない以上、退職して自分で挑戦を続けます」
すでに43歳になっていた。
なぜ抹茶好きが自宅で抹茶を飲まないのか
起業を決意した塚田さんの頭にあったのは、STONEMILL MATCHAの経営を通して耳にした、ある常連客の言葉だった。
STONEMILL MATCHAは盛況だったが、なぜか、抹茶の粉を買って帰る客はほとんどいなかった。そこで常連客のひとりに、なぜ抹茶を買って帰らないのかを尋ねたことがあった。すると、こんな答えが返ってきたという。
「抹茶ドリンクは自分で作れないから、わざわざ飲みに来てるんじゃないか」
たしかに、抹茶は水やお湯に溶かそうと思ってもダマになりやすい。日本人なら茶筅を使うすべを知っているが、茶筅は扱いが難しいし、だいいち、毎回茶筅で抹茶を点てるのは面倒なことだ。しかし、コーヒーと同じように「店外飲用」のための物販が広がっていかなければ、抹茶ビジネスの規模が大きくならないのは明らかだった。
ボトルネックはいったいどこにあるのか?
「コーヒーの場合は、オフィスでも自宅でもコーヒーマシンで淹れて飲んでいるわけですが、考えてみれば、抹茶を淹れてくれるマシンって存在しないんですね。だったら、抹茶マシンを作ってしまえばいいじゃないかと。リーフ(茶葉)を投入すると液体の抹茶が自動的に出てくる装置があれば、職場でも自宅でも抹茶が飲めるわけですよ。LTV(ライフ・タイム・バリュー、顧客生涯価値)的にはリーフの販売こそ重要なわけで、装置さえあればリーフを継続的に販売していくことができるんですよ」