半導体で地域を活性化する
――これからの課題をどう見ていますか。
【野原】とにもかくにも、人材確保が大きな課題です。ラピダスに関しては採用が進んでいますが、日本全体でみると、比較的、設計部分の人材育成に課題があります。さらに、グローバルアライアンスは、IBMやIMECとの連携を具体的に進めていくだけでなく、もっと進めていく必要があります。日本国内で人材育成をしつつも、世界の第一線の人材、あるいは企業とどう、連携するか。ここは忘れてはならない視点です。
九州はかつて、「シリコンバレー」になぞらえて「シリコンアイランド」と呼ばれていました。そこから衰退を経験しましたが、反転攻勢する目は残っています。現に、TSMCの進出後、九州地区で新たに半導体関連の会社80社余りが新規投資を行う計画を発表するなど、活況を呈しています。
うまくいけば、これが地域経済の振興モデルにもなり得ます。実際、九州フィナンシャルグループの試算では、支援決定した補助金の上限4760億円に対して、その9倍の4兆2900億円もの経済効果が今後10年間で生じるとされています。目に見える形で経済効果が生まれれば、第2、第3の事例が生まれるかもしれません。
アメリカは10兆円、日本は2兆円
――ラピダスには国からも700億円の補助金が出されるほか、半導体産業全体ではこの2年で2兆円という予算額が計上されています。しかし各国と比べると少ないのではないでしょうか。
【野原】これは予算制度の違いもあります。アメリカなどは複数年度分を一気に計上しますが、日本の場合は予算単年度主義のため、「10年分を一気に積む」ということにはなかなかなりません。そのため、「アメリカは半導体産業に10兆円の財政支援!」といった数字だけ見てしまうと見劣りするという印象を持たれる方がいらっしゃるかもしれません。
しかし、日本の場合はその都度、進捗を点検しながら予算措置を講じますので、むしろ一生懸命成果や進捗を示さないと、翌年の予算がつかない事態にもなりえます。その意味では「サボれない」仕組みになっていますので、プラスの面もあります。
ひとつの産業の盛衰には、少なくとも10年はかかります。その間、政策を継続しないと、途中でやめてしまったら成功しません。そのためには、国民の皆さまに現状を知っていただき、危機感を共有いただいて、中長期的に取り組みを継続していくことが大事です。
――「霞が関のミスター半導体」ともいわれる野原さんに対する期待も大きい。
【野原】いやいや、そんなたいしたものではないですよ。半導体政策は、私が一人で取り組んでいるのではありません。情熱を持って取り組んでいる部下や理解のある上司、多くの関係者の協力と貢献によって支えられています。
国民の皆さまの中には厳しいお声があるのは承知しています。経済産業省としても、皆さんの期待を裏切らないように頑張りたいですね。