米中対立で業界が大きく変化した

――そうした中でアメリカの政策転換があったと聞きます。

【野原】オバマ大統領までは、自由貿易を促進し、世界中どこでもグローバルに、ビジネス上、最適な環境にある国が半導体を作ればよく、アメリカはその国から安定的に供給を受ければいいじゃないか、という発想でした。

しかし、トランプ政権登場のあたりから米中対立が明確になり、アメリカの政策が「中国を取り込んで変化させるという従来のエンゲージメント政策は効果が十分でなく、別のアプローチを考える必要がある」という方向へ舵を切りました。

アメリカはIBMなど開発、設計に強い企業は複数あるのですが、製造面は台湾などに頼っています。そこでアメリカは同志国、有志国内でのサプライチェーン再構成を目指すようになりました。

こうした事情が大きく影響し、日米間で半導体協力基本原則を結ぶことになったのです。緊密に連携しながら、互いに足りないところを補完しつつ効率的にサプライチェーン上の弱点をなくしていこうとなったのです。

いまが復活の最後のチャンス

――こうした状況を経産省の資料では「復活のラストチャンス」と呼んでいますね。

【野原】日本は半導体の素材や製造装置においては、世界市場で高いシェアを占めています。そうした国際競争力が残っているうちに、その強みを足掛かりに復活を目指さないといけないと思っています。ビジネス上合理性があるうちに政策をテコ入れして、反転させないと、日本と一緒に組むメリットがアメリカなど諸外国の企業になくなってしまうので。

世界一の時代を知っている技術者というのももう引退間際になっています。彼らの知見、経験を生かせる時間はもう少ない。

現在、半導体製造のマーケットの中心は、スマートフォンやパソコンなどのデジタル機器の中核部品であるロジック半導体です。さらに、今後、2050年までに世界のデータ流通量は爆発的に拡大することが見込まれており、大量のデータを日々処理する次世代計算基盤が重要になります。これを支えるのも、高速かつ低消費電力な最先端の半導体です。

こうした先端半導体を作れる技術が国内にないと、素材や製造装置の会社もいずれ顧客のいる海外に出て行ってしまいかねません。

そうなる前に手を打たねばという問題意識が強くあります。ラピダスはそのひとつです。