レコード市場の壊滅で、ダーウィンの進化論を思い出した

1980年代にCDが出てきたとき、当時のぼくが何を思ったかといえば、こんなもので音楽を聴く人がいるはずがないやろう、と。あまりにも簡単に音楽を聴くことができるCDがものすごく薄っぺらに感じたんです。

ところがあっという間にCDが市場を席巻して、2000年代に入る頃には、レコード市場はほとんど壊滅に近い状態でした。

そのときに思い出したのが、ダーウィンの進化論です。ぼくはCDが出てきたときに、レコードより優位になるとは思いませんでした。ダーウィンは、目の前で起きていることに適応するしかないと言っていたのに、自分の経験を優先して考えたからです。ぼくはこの本を何度も読んでいるのに、何も生かせていないと反省しました。

2000年代に入ると、今度はストリーミングサービスが始まり、CDもかつての勢いはありません。ここ数年、レコードを聴く人が増えているそうですが、おそらく珍しいものとして楽しまれているのでしょう。こうした状況もかつては予想できなかったことです。

ダーウィンを理解していないから「プロダクトアウト」の発想になった

ライフネット生命をつくってからも、ダーウィンの進化論を思い出さざるを得ないできごとがありました。2008年にライフネット生命を開業したとき、パソコンで生命保険の申し込みができるサイトはつくったのですが、スマートフォン用のサイトは資料請求ができるようにしておけば十分だろうと考えて、簡易的なものをつくっただけでした。当時、スマートフォンはまだそれほど一般的ではなく、保険のような高額なものを契約するときにはパソコンを使うに決まっていると考えたからです。役員や株主のなかには、そもそもスマートフォン用の契約ページをつくるなんてお金の無駄遣いだ、と言う人もいました。

ラップトップとスマートフォン
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ところがやってみたらえらいちがうで、と。スマートフォンからどんどん契約が来たんです。あわててスマートフォン用のサイトをしっかりつくり直すことになりました。

ちょっと気を抜くとこうなります。生命保険の契約をするときは、パソコンを使うだろうと、自分たちで先に出口を決めていたんです。こういうのをプロダクトアウトと言います。本当にダーウィンを100%理解していたら、スマホ用もパソコン用も同じようにサイトをつくって、どちらの利用者が多いかを見てから次にどうするかを考えればいいと判断するはずです。

ところがそんな思考ができなかった。ぼくが愚かだったんです。本を読んでわかったつもりになっていても、人間の固定観念は、簡単には消えないと改めて思わされたできごとでした。