古典から何を学ぶことができるのか。立命館アジア太平洋大学学長の出口治明さんは「『ソクラテスの弁明』を読めば、人間は論理だけでは動かせないことがよくわかる。多くの人から協力を得るためには、ロジックだけでなく、『かわいげ』も重要になる」という――。

※本稿は、出口治明『ぼくは古典を読み続ける 珠玉の5冊を堪能する』(光文社)の一部を再編集したものです。

有名な反ギリシャの哲学者ソクラテスのアラバスターの姿は、知恵を表す本の上に立っています
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偉人たちが続々と誕生した時代

ソクラテスの弁明』の著者は、ソクラテス(BC469~BC399年)の弟子の一人プラトン(BC427~BC347年)です。ソクラテスという人は、自分では何も書き残していなくて、ソクラテスのことを知りたければ、ほかの誰かが書いたものを読むしかありません。その代表的なものがこの『ソクラテスの弁明』で、プラトンが、ソクラテスが語ったように書いています。

紀元前5世紀前後のギリシアには、ソクラテスやプラトンを含めて面白い人が山ほどいました。ソクラテスの同時代人では、当時、人気のあったギリシア悲劇の作者で三大悲劇詩人と呼ばれるアイスキュロス、ソフォクレス、エウリピデス。

ほかにアテナイの最盛期を築いた政治家のペリクレス、彫刻家でパルテノン神殿の再建に従事したフェイディアス、歴史家のヘロドトスなど、きら星のごとく才能のある人がたくさん現れたのです。哲学者も数多く、あとで紹介する『ギリシア哲学者列伝』には82人が紹介されています。

地球全体が豊かになって、思想家や学者が登場した

これはギリシアに限ったことではなく、インドではブッダやジャイナ教を開いたマハーヴィーラも生まれていますし、中国では孔子や老子が生まれています。孔子はソクラテスよりも80年くらい年長で、孔子とブッダ、マハーヴィラはほぼ同時代人と言ってもいいでしょう。

つまりこの時代に世界規模で知の爆発が起きたのです。当時はお互いを知ることはできませんでしたが、もし今のようにSNSがあって彼らがつながっていれば、と考えたら楽しいですね。

知の爆発が起きた理由は明白です。地球が温暖期に入り、農産物がたくさん収穫できるようになりました。さらに鉄器が世界的に普及したことから、農業の生産性が上がり、世界全体の高度成長が始まったからです。そうなると富裕層が増えます。

そういう富裕層が、仕事をしなくて遊んでいる人、勉強している人を養うことができたということ。地球全体が豊かになって、畑や田んぼを耕さなくてもご飯が食べられる学者のような階級が生まれた。だから学問が発達したのだと考えればいい。