萩本光威(ラグビー日本代表女子ヘッドコーチ)
現役時代、小柄なスクラムハーフながら、巨漢を倒すタックルを身上としていた。同志社大学で大学日本一、神戸製鋼では日本一に貢献した。1987年第一回ワールドカップ(W杯)には日本代表として出場した。引退後、指導者に転じ、男子日本代表の監督を務め、現在は女子日本代表のヘッドコーチ(HC)として手腕を発揮する。
男女の違いはあれ、指導の基本は変わらない。53歳は言い切る。
「ラグビーはまず、自分の責任を果たすスポーツだと思う。自己犠牲の強いスポーツでもある。それを逸脱する無責任な選手やプレーは嫌いですね」
男子と比べると、女子はまだ発展途上である。競技人口は約1500人程度。だが2016年リオデジャネイロ五輪から7人制ラグビーが正式競技入りしたとあって、日本ラグビー協会は五輪を人気回復の起爆剤とするため、強化に本腰を入れ出した。なでしこジャパンのラグビー版をもくろむ。
日本の場合、15人制と7人制の日本代表選手はほとんどダブっている。だから、15人制日本代表HCの萩本も、選手個々を強化し、リオ五輪を目指す7人制日本代表のレベルアップにつなぎたいと期待する。まずは個人能力の力量アップが日本代表の強化につながり、ひいては五輪出場にもつながる。
他競技からの転向者も多く、「ラグビーという競技が分かっていない選手もいる」とこぼす。「だが、やりがいはある。まだ成熟していない女子ラグビーなので可能性が大きい」
難しいのは、女子選手の怒り方という。神経を使う。そうは言いながらも、グラウンドでは大声で怒鳴る時もある。「ラグビープレーヤーとして自立してもらいたいという願いがいつもある。女子は誰かに頼る部分が多い。それでは最後は勝てない。自分で考え、自分で動け。男子は短期集中できる。女子は短期集中できないけれど、長い時間、一所懸命にやることができる。下手はわかっとる。下手は下手なりに一所懸命やれ、さぼらずに100%出せと」
7月、中国でのアジア4カ国対抗戦の強化合宿。もちろん目標は優勝。
「まず個人のタックル力。踏み込んだタックルで相手を圧倒してほしい」
15人制日本代表の強化がすなわち、7人制の力量アップにもつながると、萩本は信じている。自立した代表選手の厳しいタックルの延長線上に、7人制の2014年ワールドカップ(W杯)、さらには16年リオ五輪が待っている。