「おしどり夫婦」に見えるモラ夫と妻

モラ夫は、妻を非難する際、「普通ならここで、○○するだろう」と「普通」を強調するが、ここでモラ夫が言及する「普通」とは、彼の超自我に組み込まれた価値規範群に照らして正当であることを意味していることが多い。男性が、モラ文化に無批判に従っているほど、モラハラも激しくなるが、男性本人は、自らに刷り込まれた価値規範群に従っているだけなので、何ら非難される筋合いはないと信じている。

こうして、モラ加害が激しくなるほど、モラ夫自身が自らの言動の問題性に気付くことが難しくなる。

このような夫婦は、周りにはどう映るのか。夫がほどよくリードし、貞淑な妻が控えめに付き従う夫婦にみえることが多い。その結果、世間から「おしどり夫婦」などと評価される。

2015年、あるロック歌手の離婚で、「夫のモラハラ」が主張され、モラハラという概念が日本社会に広がった。この夫婦は、離婚裁判が起きるまでは、「おしどり夫婦」として有名であった。

次々出てくる「離婚できない理由」

Aさんは、その後も何度も法律相談に訪れた。離婚するべきかどうか、悩み、結論が出なかった。

モラ被害のパラドックス
漫画=榎本まみ

夫がモラ夫であるかどうかはさておき、結婚生活はAさんにとっては辛いものであった。彼女は、夫婦生活においては「よい妻」を演じていたが、その心は傷つき、ボロボロだった。メンタル不調にも悩まされるようになり、心療内科に通院していた。

ところが、「離婚したいのですか」と聞くと、「『離婚』には憧れるが、現実的ではない」と言い、以下のような、「離婚できない理由」を次から次へと述べ始めた。

① 夫を怒らせる原因は私にある。私は家事もちゃんとできておらず、料理も下手なので。
② 私も夫に言い返し、反撃しているので、お互い様だと思う。
③ 別居・離婚後の生活を自分で成り立たせる自信がない。
④ 実家などに迷惑をかけたくない。
⑤ 子どもには父親も必要。子どもから父親を奪いたくない。
⑥ 夫が怖くて、別居や離婚を言い出せない。
⑦ 夫は別居や離婚を許してくれない。
⑧ 私は、まだまだ頑張れる。

多くの相談者は、法律相談までに離婚するかどうかといった方針を決めておくべきだと考えている。弁護士にもそうした考えを持つ人がいて、「離婚するかしないかお決めになって下さい」と相談者に迫ることがある。しかし、離婚するかどうかは、その後の人生を全く違うものにしてしまう重大な決断であり、迷う方がむしろ自然だろう。

Aさんも、初めて法律相談に訪れてから離婚を決断するまで、平均1カ月に1回のペースで相談に訪れ、結局1年かかった。最後の2~3回の相談では、別居してから離婚成立までのシミュレーションを繰り返し、最終的に無事離婚にたどり着くであろうことを確認し、ようやく決断した。