戦争に巻き込まれないために

「自ら戦争を起こすことをしない」としている日本は、地政学的なリスクはあるにせよ、「中立的立場」をとり、他国同士が戦争に突入しても参戦しない道を選ぶこともできるはずだ。

そのやり方が奏功している国も存在する。永世中立国・スイスが典型例だ。スイスは稀にしか戦争に参加しないが、その方針によって平和を持続できている。日本が参考にできる点は多いはずだ。

日本が戦争に巻き込まれることを回避するためには、「わが国は中立的な立場である。憲法上、戦争参加が禁じられており、軍隊も存在しない」と表明することだ。

しかし、日本の政治家にその考え方はない。彼らは決まって、「皆が戦うのであれば、われわれも戦わなければいけない」と言う。

現状のやり方を変えなければ、関係の深い国が戦争を始めた場合、たとえ自国が攻撃を受けていなくても戦争に巻き込まれることは避けられない。日本と同様、アメリカと同盟を結んでいる韓国も同じ課題に直面している。

現在、韓国には約3万人のアメリカ軍が常駐しているが、もし米中間で台湾有事が勃発すれば、瞬く間に韓国は戦争に参加させられることになる。その戦争は韓国を破滅に導くだろう。日本も韓国も、米中戦争に参加するメリットは存在しない。

日本、中国、アメリカ、イギリス、EUのそれぞれの国旗がそれぞれの方向を指している道標
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アメリカの国民は、「仮にアメリカが中国と戦争を始めても勝てない」と感じているのに、無理やり戦争に参加させられた日本が「勝つ」ことはないだろう。

それに、ただでさえ日本社会では人口減が進んでいるのに、戦争で次世代の若者たちが亡くなるなんてとんでもない話だ。そして戦争では借金が増え、すでに債務超過状態にある日本は壊滅的な打撃を受けるだろう。

すでに米中戦争は始まっている

とはいえ、米中戦争に歯止めをかけることは難しい。歴史上、最盛期を過ぎた覇権国と次期覇権国が対峙たいじした場合、非常に高い確率で戦争が勃発するからだ。アメリカのグレアム・アリソン氏は、このことを「トゥキディデスの罠」と言った。

この言葉は、新興勢力が台頭し既存勢力の不安が増すとしばしば戦争が起こるということを意味しており、ペロポネソス戦争を引き起こしたのは新興国アテネに対するスパルタの恐怖心であった、という古代ギリシャの歴史家トゥキディデスの分析に由来している。

往々にして、戦争はささいな理由から始まるが、すでに米中間には敵対意識が芽生えている。だから、すでに米中戦争は始まっているといっても過言ではない。