恋愛パワーだけでなく、クワイエットアイの効果も
リョータの“行動”は彩子との恋愛エピソードだけでなく、アスリートが活躍するのに大切なヒントが隠されている。特定の1点を集中して見るという動きは、「クワイエットアイ(視線固定)」と呼ばれるもので、近年のスポーツ科学でも意識の処理や注意散漫への対処法として注目されている理にかなったアクションなのだ。
あるベテランのメンタルトレーナーはこう解説する。
「クワイエットアイはプレーを開始する前に1点を注視する方法です。心を落ち着かせるのに有効で、集中力が飛躍的にアップします。具体的には、バスケットボールのフリースロー前に(距離4.225m、高さ305cm、内径45cmの)リングを注視する、という例を想像してもらえれば分かりやすいかもしれません。バスケのフリースローにおいて、クワイエットアイの時間が短いと成功率が下がるという研究結果があり、プレッシャーがかかる場面になるとクワイエットアイの時間がより短くなることも報告されています」
リョータの場合は手のひらを見つめただけでなく、そこには大好きな彩子がマジックペンで書いた文字があったことがさらに大きな効果をもたらしたと想像できる。
普段の生活で、人間は意識せずに1点を見つめている時間はわずか0.2秒程度だという。文字がなければ、クワイエットアイの時間は短くなった可能性が高い。このときリョータが深呼吸をしていれば、それだけでストレスを低下させ、気持ちを落ち着かせるのに役立っていただろう。
さらにリョータは「No.1ガード」の文字を見て、ポジティブな思考になれたはずだ。人は「失敗してはいけない」と考えるときほど、緊張してうまくいかなくなるもの。その状態にハマっていたリョータが覚醒。冷静さを取り戻し、広い視野で仲間の動きが見られるようになり、パスがつながっていくことになる。