そこで政府が昨年11月に打ち出したのが「スタートアップ育成5か年計画」である。計画には「高等専門学校における起業家教育の強化」がうたわれている。

具体的な施策として、文科省は「高等専門学校スタートアップ教育環境整備」の費用、60億円を22年度補正予算案に盛り込んだ。

また、これとは別に、文科省科学技術・学術政策局産業連携・地域支援課(産地課)は2014年度から「グローバルアントレプレナー育成促進事業(EDGE、エッジ)」など、アントレプレナーシップ(起業家精神)教育の施策を大学中心に進めてきた。そのすそ野が、「スタートアップ育成5か年計画」によってさらに広がることになる。

「起業家教育」の真意

ただ、これについて「起業のための教育という認識はしておりません」と、文科省産地課産業連携推進室の和仁わに裕之さんは強調する。

「アントレプレナーシップ教育」「スタートアップ教育」という言葉は一般的ではないため、政府の文書には「起業家教育」という言葉が多用されているが、その本質は「自ら自分の課題などを発見して失敗を恐れずにチャレンジしていく。その精神と行動様式をしっかりと育むためのプログラムです」(和仁さん)。

「高等専門学校スタートアップ教育環境整備」では、全国57校の高専に約1億円ずつを補助し、高専生が自由な発想で試作に取り組める共用スペース「起業家工房」を整備する。これには設備費や材料費、活動費なども含まれる。

「起業も含めて、高専生がいろいろな実践的な活動にチャレンジできるよう、応援したい」と語る前出の奥井課長補佐らの狙いは、起業家工房を中心としたコミュニティーづくりだ。

「DCON(ディーコン。全国高等専門学校ディープラーニングコンテストの略称)に参加した学生に、普段どこで活動しているのか尋ねると、先生のゼミ室でやっていると言う。そうすると、なかなか学科や学年を超えた交流は生まれない。材料費も少ない。そこで、学生がディスカッションしたり、一緒にものづくりをしたりする場をつくっていくわけです」(奥井課長補佐)

ここがすべての出発点だった

実は、すでにそれを実現している学校がある。

東京都八王子市にある東京高専である。

20年、東京高専の「プロコンゼミ点字研究会」は、文書を自動で点字に翻訳したり、逆に点字を文書に翻訳したりするシステムで、第1回DCONで最優秀賞を受賞。副賞として起業資金100万円を授与され、翌年にベンチャー企業を立ち上げた。