岸田政権が児童手当の所得制限の撤廃を検討している。ジャーナリストの尾中香尚里さんは「論点は所得制限の有無ではない。撤廃されたところで自民党が今なお『子供は家庭で育てるもの』という理念を持ち続ける限り、少子化対策が実効性を持つとは考えにくい」という――。
自民党の児童手当の裏にある政治理念
通常国会の焦点として急浮上した、岸田政権の「異次元の少子化対策」。驚かされたのがその中身だ。「児童手当の所得制限撤廃」。そう、彼らが10年前に散々こき下ろした民主党政権の「子ども手当」を、今になって踏襲しようというのだ。
野党の目玉政策への「抱きつき」戦略で攻め手を封じる狙いだったのかもしれないが、当時政権の側にいて自民党の罵詈雑言に耐え続けた立憲民主党は、当然ながら激怒した。首相自身が国会で、当時の自民党の態度の「反省」に追い込まれた。
野党を丸め込むどころか、逆に野党の攻め手をさらに増やす結果を招いた自民党。「この愚か者めが」(丸川珠代元五輪担当相)とは一体どちらなのかという気もするが、そのことへの言及は他に任せたい。ここで指摘したいのは、「児童手当(子ども手当)の所得制限撤廃」という政策に込められた、自民党と民主党政権の政治理念の違いだ。「所得制限の撤廃」は、実は与野党二大政治勢力の「目指すべき社会像」の違いを示す象徴的な政策の一つなのである。
付け焼き刃的な政策のまね事は無意味
岸田政権が付け焼き刃的に民主党政権時代の政策をまねてみたところで、その背景にある政治理念を共有できないのであれば、仮に政策が実現しても「ほとぼりが冷めたら(統一地方選が終わったら)元の木阿弥」ということになりかねない。
「子ども手当」は、今から14年前の2009年に自民党から政権を奪った旧民主党の、目玉政策の一つだった。民主党の下野から11年、いまだにわずか3年3カ月の民主党政権を「悪夢」と声高に叫ぶ向きがあるが、彼らにとっての「悪夢」の一つがこの「子ども手当」であったことは論をまたない。