藤原新(ロンドン五輪男子マラソン代表)
マラソンでは珍しいプロランナーである。実質、コーチはいない。自分で考え、自分で走る。いわゆる“コーチングプレイヤー”(選手兼コーチ)。「練習はもちろんですけど、自分の精神状態にも気をつかっています。モチベーション管理やストレス管理、そのコントロールは常に意識しています」
長崎県諫早市出身。中学時代に陸上を始めたが、諫早高校で全国高校駅伝には出場できなかった。拓殖大学では箱根駅伝に2度出場し、実業団のJR東日本に入社、2008年の東京マラソンで2位に入って、脚光を浴びた。北京五輪は補欠のまま出番なし。09年ベルリン世界選手権(61位)に出場した。
実業団の駅伝ありきの練習に反発し、10年3月にJR東日本を退社してプロランナーを名乗った。同年夏に健康用品会社とスポンサー契約を結んだが、経営難のあおりを受け、昨年10月に契約を解除された。妻と1歳の長女を抱え、収入ゼロのどん底を味わう。
ことし2月の東京マラソンで再び、日本人トップの2位となり、ロンドン五輪代表の座をつかんだ。自身のマネジメント会社を設立し、インターネット動画サイト「ニコニコ動画」を通じて練習費を募るユニークな作戦に出た。一口500円で2万人、約1000万円が集まった。その後、ミキハウス、BMW、カゴメと次々とスポンサー契約を結んだ。
「去年はプロのランナーとしての値段は0円だった」と藤原は言う。今年は1億円?と振られると、「そこまではいっていないと思います。ただ、いただけるものはいただいて。オリンピックをチャンスととらえて、プロランナーとして大きくなっていきたい」
7月からはサンモリッツ(フランス)で合宿を張り、そのままロンドンに乗り込む予定。走りこみでは1日40キロを超す距離を走り、スピード練習も繰り返す。コーチがいないからサボりたくなる時もある。
「きつい時は、練習はいやだな、もっと寝ていたいな、と思う時もある。でも、そんな時は自分に言うのです。とにかく始めろ。黙ってやれ。とりあえず、スタートしてみろ。まず1キロまでいこう。次は2キロまでいこう、と。そうしたら、ワーとエネルギーがわいてくる。人から言われるとカチンとくるけど、もう一人の自分が言うからやるしかない」
リッチになったプロランナー、30歳のロンドン五輪の目標はメダル獲得である。