きわめて難しい株式持ち合いの定義
上場株式の持ち合いに対する市場や監督当局の目が厳しくなっている。持ち合いの実態と目的を開示させるという方向での規制が強化されつつあるし、持ち合いを難しくさせる時価主義会計制度の強化も進められている。
そもそも持ち合いとは何か。その定義はきわめて難しい。持ち合いは、明確な契約書を交わして行われるのではなく、経営者の暗黙の了解をもとに行われる慣行だからである。持ち合いの状況を開示せよとの要求に対して、どの株式保有が持ち合いに当たるか、と考えあぐねている経営者も少なくない。
持ち合いは日本独特の慣行である。それは、財閥系企業の間で始まった。持ち株会社が法的には許容されていなかった戦後すぐの日本で、本社を強制的に解体されてしまった財閥グループ企業が互いの紐帯を強めるために生み出した慣行であった。その後、資本自由化に伴って起こりうる海外企業による買収の防衛手段として、持ち合いが行われることになった。その持ち合いには、旧財閥系企業だけでなく、戦後設立された企業をも含め、多くの企業が参加した。その中核となったのは都市銀行であった。大きな都市銀行は、顧客開拓の一環として多くの企業をその関係に引きこんでいった。しかしバブル崩壊後の金融危機で銀行が持ち合い株の売却を迫られたために、持ち合いはいったん解消されることになった。
しかし、最近は、復活しつつある。最近の持ち合いは銀行を中心としたものではなく、取引相手、戦略的連携関係にある企業間、経営者同士の信頼関係のある企業間でお互いの株を持ち合うという形で進められている。最近の持ち合いの目的ははっきりしないが、持ち合いは、前述のように経営者同士の暗黙の了解のうえに成り立っている。その暗黙の了解とは、まず、大きな事情の変化がない限り相手先企業の株式を保有し続けるという了解である。また、その株式を、相手先企業の了解なく売ることはしないという了解もある。それだけではなく、議決権行使に関しても、経営陣を支持するように行使するという了解もある。これらの了解は無条件に守られるのではなく、相手の経営に誤りがあると見なされれば、了解に反した行動がとられることもありうる。その条件を事前に特定できないから契約書は取り交わせないのである。日本の産業社会にはこのような書かれざる契約関係が多い。終身雇用も、長期的な取引関係も、そこからの離脱はありうるが、その条件を事前に特定できないから書面の契約書にはできないのである。
この持ち合いを規制しようとする動きの背後には、持ち合いは日本の悪弊であるという常識。少なくとも株主の利益にはならないという常識があるようだ。持ち合いをしている企業の経営者の側にも、後ろめたい気持ちはあるようだ。ほんとうに持ち合いは悪弊なのだろうか。以下では、持ち合いは株主の利益につながらないのかどうかを冷静に考えることにしよう。