その後、過激漫画やアニメは自粛が始まり、おおっぴらに目にすることはほとんどなくなった。ただ、日本の「カワイイ」が世界に拡がっていくとともに、「萌え系」の表現は、日本の「オタク文化」の1つとして浸透していった。

偏見に晒されることが少なくなかった萌え系の表現も、徐々に市民権を得て、萌え系キャラクターの漫画やアニメが多くの人たちに違和感もなく受け入れられるものになった。現在に至って萌え系はごく自然な表現方法として定着している。

「性搾取的」と批判され、温泉むすめは大混乱

そんな萌え系に、新たな「敵」が現れる。

2016年に全国の温泉地をキャラクター化する「温泉むすめ」というプロジェクトが発表されて、翌年にイメージアニメが公開された。それぞれの温泉地の苗字を持つキャラクターに人気声優が声を当てるというやり方が斬新で大好評を博した。このプロジェクトは観光庁が後援した。

ところが、2021年に困難少女の支援団体であるColabo代表の仁藤にとう夢乃ゆめの氏が、温泉むすめに性差別的な性搾取があると指摘して、批判を展開した。

仁藤氏の、「温泉むすめが大好きでいつもスカートめくりをしちゃう」「『今日こそは夜這いがあるかも』とドキドキ」「隠し切れないぐらいの大人な雰囲気の持ち主で、肉感もありセクシー」といった設定文が性搾取的であるという主張が、フェミニズムに理解のある人たちを中心に強い賛同を集めた。

かつて萌え系を擁護した左派の手のひら返し

その前にも、弁護士の太田啓子氏が2018年、NHK「ノーベル賞まるわかり授業」でVチューバーのキズナアイを起用した際に、キズナアイのイラストが性的に強調されていると批判して、論争になっている。さらに太田氏は、2019年には日本赤十字社が「『宇崎ちゃんは遊びたい!』×献血コラボキャンペーン」で、巨乳のキャラクターを使っていることに「共空間で環境型セクハラしているようなもの」と主張して、日本赤十字に対して抗議している。

石原慎太郎という共通の敵がいたときに萌え系の擁護をした左派が、フェミニズムからの批判によって、萌え系が次なる「敵」に転換した。今や共産党などの左派も基本的にフェミニズム側に立っている。

萌え系が広く定着するに至って、フェミニズムが先鋭的に対立しはじめた形だ。