右派の代表、石原慎太郎が敵視した「萌え系」
2011年、東京都知事(当時)の石原慎太郎が、あるテレビ番組で「若者をダメにしたもの」として携帯、テレビ、パソコンの3つを挙げたことがある。それらの道具で多くの知識が得られたとしても、その知識には「身体性」がなく本当の教養にはなりえないと、政治家というより文学者に近い感性で批判した。
マスコミが左派に、ネット言論が右派側に傾くのは多くの先進国で顕著な傾向だ。もともと左派はノイジーに、右派はサイレントになる傾向があり、いわゆるサイレント・マジョリティーには右派が多い(そうでないと、自民党が長期政権になるわけがない)。だから、サイレントマジョリティーが数多く参加するSNSで右派言論の声が大きくなるのは当然だろう。
右派の代表である石原が都知事だったころ、ネット言論は石原の大応援団と化していた。そのネット言論が石原と激しく対立したことがある。それが、美少女キャラが登場する「萌え系」の漫画やアニメにおいてだった。当時は「過激ロリコン漫画」など、少女に対する過激な性描写を含む作品も存在していたことが槍玉に挙がったのだ。
都知事の“弾圧”を受け、過激漫画は自粛へ
2010年に石原は都議会に漫画やアニメの性的表現を規制する「青少年健全育成条例」の改正案を提出した。東京都ではすでに条例で「有害図書」の規制があったが、新条例では性行為を「不当に賛美し又は誇張するように」表現した、と都の判断で規制できるようにした。
規制に至る基準が曖昧だったことから、創作活動を萎縮させるなどと共産党などの左派や知識人などから大きな反対の声が上がった。ネット言論も、石原の若い頃の小説の過激な性描写を使って大反対の声を上げたが、石原は都知事として強引にことを進めた。
冒頭の発言を知れば、石原が過激漫画を嫌悪する理由がわかるはずだ。多くの過激漫画が年端もいかぬ少女を対象に、犯罪まがいのやり方で性的な行為を迫るような描写があり、その嗜好がない者には嫌悪感しかわかないような代物だった。「身体性」を重視した石原が、非現実的な願望をそのまま描いたような漫画やアニメを受け入れるはずもなかった。