年金の開始年齢引き上げで困窮者が急増する可能性も

公的年金の支給開始年齢は、現在65歳に向けて引き上げられている(2025年に完了)。しかし、65歳で終わりになる保証はない。70歳までの引き上げが必要になることはありうる。仮に、年金支給開始年齢が70歳に引き上げられれば、70歳までの生活は、年金に頼ることができない。企業が70歳までの雇用を認めるかどうかは、何とも分からない。仮に認めるとしても、賃金は著しく低水準にならざるを得ないだろう。

これによって影響を受けるのは、2025年において65歳となる人々以降だ。これは、1960年以降に生まれた人々だ。したがって、「団塊ジュニア世代」も「就職氷河期世代」も、この影響を受ける。この世代あたりから、非正規雇用が増える(なお、非正規雇用が多いのは、この世代に限ったことではない。それ以降の世代も同じように多い)。

現役時代に非正規である人は、退職金もごくわずかか、まったくない場合が多い。だから、老後生活を退職金に頼ることもできない。そうなると、生活保護の受給者が続出する可能性が高い。この問題については、拙著『野口悠紀雄の経済データ分析講座』(ダイヤモンド社、2019年)の第4章で詳細に論じたので、参照されたい。

一刻も早い「資産所得への課税強化」が必要

野口悠紀雄『2040年の日本』(幻冬舎新書)
野口悠紀雄『2040年の日本』(幻冬舎新書)

負担引き上げを行なう場合には、その財源をどう確保するかが重要な問題だ。社会保険料率の引き上げだけでなく、税負担率の引き上げも避けて通れない。この議論はまったく行なわれていないのだが、一刻も早く本格的な議論を始めることが必要だ。

その際、まず最初に必要なのは、現在の税制における大きな不公平を是正することだ。とりわけ、資産所得に対する課税が著しく軽減されている事態を改革する必要がある。岸田首相は、首相選の際には、資産課税の強化を提案した。しかし、株価の下落にあって、すぐさま撤回してしまった。そして、NISA(少額投資非課税制度)の拡充など、資産所得に対する課税を軽減するという、当初とはまったく逆の方向に転換してしまった。

税制調査会は、資産課税の強化を打ち出す方向で検討を始めた。本稿執筆時点において、結論がどうなるかは分からないが、強化の方向での進展を期待したい。

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