国民の負担引き上げの具体的手当てが議論されていない
政府見通しの第三の問題は、負担率を上げるための具体的手段が示されていないことだ。すでに見たように、政府が想定しているのは、負担調整型そのものだ。しかし、その実現のための手段を示していない。
後期高齢者医療保険の窓口負担を引き上げること以外には、具体的な制度改正が行なわれていない。これは、賃金の伸びを高く見ているために、保険料率の引き上げは必要ないと考えられているからだろう。
ただし、実際には賃金は上がらないだろう。負担率引き上げと言えば反対が起きることを恐れて、問題を隠蔽しているとしか考えようがない。実際には、賃金が上がらずに負担が増えるので、生活水準は低下する。労働力率を高めれば問題は緩和されるが、問題は残る。給付調整を考えるべきかどうかも、議論されるべきだろう。
医療保険の自己負担率はどこまで上がるか
真面目に働いていれば、いつまでも「健康で文化的な生活」が送れるような社会が維持できることが望まれる。しかし、今後の日本で現実にそれが可能だろうか? 事態はそれほど簡単ではない。
後期高齢者医療費の自己負担率が現在のような率でよいのかどうかは、大いに疑問だ。いまと同じような医療を将来も受けられると思っている50歳前後の人は多いだろうが、そうはならない可能性のほうが高い。自己負担率引き上げの必要性は、後期高齢者だけに限られたものではない。現役世代についても、現在の3割負担で済むかどうか、分からない。
NIRA(総合研究開発機構)は、後期高齢者医療費の自己負担割合の引き上げについて、アンケート調査を行なった。2022年3月に公表された結果では、66%が引き上げに賛成だった。NIRAは、「現役世代の負担が大きすぎて、医療制度が維持できなくなることへの危機感が多くの人びとで共有されている」ことの反映だと分析している。
また、「負担率を決める基準が所得だけでよいのか」との問題提起をしている。そして、「マイナンバーは金融資産にほとんど付番されていないため、金融資産の把握は難しい。しかし、一定の基準を決め、それ以上の金融資産を持っているかどうかを把握した上で、応能負担を決めるという工夫はできないだろうか」としている。